再会17
柔らかなパンに焼いた肉、野菜がたっぷり入った汁物と夕食は豪華なモノであった。
旅をしていた時の食事と比べるまでもないが、それでもヒヅキがシロッカス邸で暮らしていた頃の事を思い出してみれば、割と日常の食事。
それでも豪華なものだと改めて思ったヒヅキであったが、その隣では特に感動も無くフォルトゥナが淡々と食事を口へと運んでいる。その姿はもはや作業でしかない。
エルフの国からガーデンまでの旅路での食事は嬉しそうに食べることが多かったのだがと思ったが、もしかしたら苦手な物があったり、食習慣の影響かもしれないと考え、気にしない事にした。それに、何か不都合が在ったら伝えてくるだろうという判断でもある。
ヒヅキは食事をしながらシロッカスと会話をして、現状のガーデンについての情報を収集していく。
現在のガーデンは、人口の面ではそれなりに以前の水準に戻ってきたらしい。ただし、構成している層が異なり、現在は元移民の労働者が人口の3割ほどを占めているという。
とはいえ、数は居ても現在は復興により仕事が多い為に不満は溜まっていないらしく、ガーデンに家族を置いて各地に散っている労働者も多いという。
住む場所も含めてその辺りは国王が気を配っているということになっているが、スキアを撃退したばかりの頃から居る住民や少し目端の利く者は、それが国王ではなくエインのおかげだと気づいているという話だった。
「といっても、エイン殿下は既に継承権は返上され、もう随分と表には出てこられていないのだが」
それでも住民に対する気遣いは変わらないようで、国王の名で復興の為の政策は最優先で行われているらしい。
そのおかげで、国王の信頼は少しずつ回復してきているという。
「なるほど。それに、やっと第一王子が王太子になったのですね」
「エイン殿下が王位継承を返上された事で、他に有力な継承者が居なくなたのでやっと決心されたのだろう」
それと共に政策の一部で王太子の名が見られるようになったらしいが、今はまだ国王の信頼回復が優先されているという。それが示すところは、国王が健在だということだろう。
ガーデンの南門に関しては通ってきたのでヒヅキは直接見たが、門とその周辺の修復は済んでいた。
ソヴァルシオンとの関係は、時期が時期なだけに以前より強固な協力関係を築けているという。それに伴い、冒険者も戻って来ているようだ。
そんな話をしながら夕食を終えるも、食後もしばらく会話は続いた。そうして一頻り情報を仕入れたヒヅキは、シロッカスに礼を述べる。
「部屋は用意させたから、好きに使うといい。お風呂も入るかい?」
「ありがとうございます。ご厚意に感謝し、お風呂も頂戴いたします」
ヒヅキがそう言うと、シロッカスは満足げに頷く。そこで既に近くに居たシンビがヒヅキに声を掛ける。
「それでは、御部屋へ案内致します」
そう告げて扉の方に移動したシンビの後を追って、ヒヅキとフォルトゥナは席を立って移動する。それからシンビに先導されるままに移動した部屋は、以前ヒヅキに宛がわれていた部屋と同じ部屋であった。
二人を部屋へ案内したシンビは、お風呂の支度をすると伝えてその場を後にする。その背を見送った後、二人は用意された部屋に入った。
「さて、明日から魔法の授業もだけれど、少し各所に挨拶に行かないといけない――」
「御供させて頂きます」
ヒヅキが言い終わる前に、フォルトゥナはそう言って丁寧に頭を下げる。
「付いてこなくとも…………まぁ、好きにすればいいさ。でも、面白くはないと思うけれど?」
「ヒヅキ様とご一緒出来るだけで、それに勝る喜びはありません」
「……そう。分かったよ」
困惑したように曖昧にそう返すと、ヒヅキは小さく息を吐いたのだった。




