再会16
「よろしくお願いしますわ。アルコさん」
頭を下げて師事を請うアイリスに、フォルトゥナは感情の乗らない瞳を向けたまま、頷いて了承する。
「あまり期待はしないで。貴方にはそこまで大きな魔力量は無いから」
「分かりましたわ」
フォルトゥナの忠告に、アイリスは真面目な顔で頷く。
「ならいい。あとは貴方の努力次第」
それだけ言うと、話は終わりとばかりにヒヅキの方に顔を向ける。
「これでよろしいでしょうか?」
「うん、よろしく。私もそれに参加してみようかな」
「ヒヅキ様もですか?」
「うん。私も魔法について知りたいからね」
「そうですか。畏まりました」
先程と違い、恭しく頭を下げるフォルトゥナ。それを確認した後、ヒヅキはアイリスの方に目を向けた。
「そういう訳ですので、私も一緒に学ばせていただこうかと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、勿論ですわ!」
ヒヅキの申し出に、アイリスは喜んで頷く。
「すまないね。迷惑を掛ける」
「いえ。私も魔法について学びたかったので、丁度良かったです」
申し訳なさそうなシロッカスに、ヒヅキは気にしていないと気楽な感じで返す。そもそも魔法を教えるのはヒヅキではなくフォルトゥナだ。
「アルコさんも手間をかけさせるね。ありがとう」
シロッカスはヒヅキとの話のあと、そう言ってフォルトゥナにも礼を述べた。それにフォルトゥナは一瞥だけする。
「そうそう、ちゃんと授業料は払うよ。魔法の知識とは貴重なモノだからね」
思い出したようにそう付け加えたシロッカスに、少し驚いたようにヒヅキは目を向ける。確かに魔法の知識は貴重ではあるが、正式に依頼された訳ではなく、ヒヅキの中ではほとんど気楽な頼みの範疇のような感じであった為に。
そんなヒヅキの様子に気がついたシロッカスは、説明するように言葉を付け加える。
「こういうことは大事なことだ。それに、冒険者に依頼しても教えてもらえるわけではないからね」
魔法は秘匿技術な部分もあるが、簡単な生活魔法であれば問題ない。それでも確実ではないので、フォルトゥナから学べるのは幸運なことなのだろう。
その辺りも含め、借りを作らない為に対価を払うとシロッカスは言っているのであろうと考えたヒヅキは、その申し出を受け入れる。答えは分かっているのでフォルトゥナには聞く必要もないが、それでも確認すると、ヒヅキの好きなようにという答えが返ってきた。
「ではそのようにお願いします」
「よかった。それで話は変わるが、宿は決めているのかい?」
「いえ」
前にも交わしたような会話に、少し懐かしさを覚える。
「では、また家に泊っていくといい。ちゃんとアルコさんの部屋も用意するから」
「それでしたら、お言葉に甘えさせて頂きます」
ヒヅキが申し出を受けると、シロッカスは満足げに頷く。そこに。
「私はヒヅキ様と同室がいいので、わざわざ用意しなくても大丈夫です」
フォルトゥナがシロッカスにそう告げる。それを受けてシロッカスがヒヅキに問うような視線を向けた。
「そうですね……」
少し考えたヒヅキは、フォルトゥナの方に目を向ける。
「別々の部屋の方がいいと思うが?」
それにフォルトゥナは首を横に振る。
「一緒がいいです」
「………………ふむ」
数拍真剣な目のフォルトゥナと見つめ合うと、ヒヅキはシロッカスの方に顔を戻す。
「同室でお願いできますか?」
「まぁ、君がいいのであれば構わないが」
「ありがとうございます」
ヒヅキが疲れたようにそう頼むと、視界の端でアイリスが何か言いたげな表情を浮かべるも、口を開くことなくシロッカスが了承する。それに改めてヒヅキが礼を告げたところで、扉を叩く静かな音が室内に響いた。
それにアイリスが応じると、扉の先に居たのはシンビであった。どうやらヒヅキとフォルトゥナの分も含めた夕食の準備が整ったらしく、それで呼びに来たらしい。
もうそんな時間かと思いつつ、ヒヅキはシロッカスからの誘いを礼を述べて受けたのだった。




