勝利条件
ヒヅキが声が聞こえた場所に到着すると、そこには予想通りに狼のようなスキアが誰かを襲っているところであった。
「あれは……エルフ?なんでこの森に?」
そこには色の薄い金髪に整った顔、それにエルフの最大の特徴の1つである先の尖った長い耳を持った少女が、結界の防御魔法でスキアの攻撃を防いでいた。
「さすがはエルフと言ったところだけど、あれはもう保ちそうにないな……さて、勢いで駆けつけはしたけど、これからどうしよう?」
ヒヅキはスキアの特徴を頭に思い浮かべながら、チラリと腰に差してある剣に目を向ける。
「これじゃかすり傷も負わせられないだろうな………だけど」
ヒヅキは腰間に佩いていた護身用の剣を鞘から抜くと、剣の柄を両手で握り締めてスキアに向かって全力で駆ける。
「ハァッ!」
ヒヅキは目にも留まらぬ速さでスキアとの距離を一瞬で詰めると、両手で握っていた剣をスキアの後ろ足の部分におもいっきり降り下ろした。
すると、カキンという甲高い音が僅かに森に響き、ヒヅキの握っていた剣の刀身は半分ほどになっていた。
「まぁ、こうなるよね」
エルフの少女を襲っていたスキアはそれでヒヅキに気がつくと、顔をエルフの少女からヒヅキに向ける。
「さぁおいで、こっからは俺が遊んであげるよ」
ヒヅキは指を動かしてこっちおいでとスキアを挑発しながら跳び退くと、距離を取った。
スキアは少しの間ヒヅキを眺めていたが、興味を失ったのか、目の前のエルフの少女に顔を戻した。
「だから俺と遊ぼうっての!」
ヒヅキは若干苛立ち気味に、持っていた刀身が半分ほどになった剣をスキアに投げつける。
それが頭の部分に当たったスキアは再びヒヅキの方に顔を向けると、今度はそのまま身体ごとヒヅキの方に向きを変える。
「そう、それでいい。俺の勝利条件はお前を倒すことじゃないんだからな」
ヒヅキはスキアが動き出すより一瞬早く駆け出すと、瞬く間に森の中へと消えていく。
スキアも逃がさないとばかりの速度でヒヅキを追いかけると、こちらもエルフの少女が消えたと錯覚しそうなぐらいの速さで森に消えていった。
残されたエルフの少女はあまりにも急な出来事に、しばらくの間訳も分からぬままに放心するも、思い出したかのように結界の魔法を解くと、近くにある自分の住んでいる村にこの事を伝えるべく、急いで戻るのだった。