再会5
見渡したプスィヒ平原を見る限り、ヒヅキがスキアを追い返した後にスキアがまた襲撃を掛けてきた様子はあまり見られなかったが、遠くに戦闘跡のような部分が微かにあった。ただ、距離がある為にそれがいつ頃のものかはまでは判らないので、スキアとの戦闘があったとも言えない。
なので、それだけを見ればカーディニア王国はあれから平和にだったということだろう。少し前までエルフの国でスキア相手に首都防衛をしていたフォルトゥナには、その平和な光景が新鮮に映ったようだ。
ヒヅキが頷いたのを確認したフォルトゥナは、敬慕の瞳でヒヅキを見上げる。
カーディニア王国のスキアをヒヅキが追い返したことは、カーディニア王国について説明した時に一緒に話していた。
「たまたま上手くいっただけさ」
フォルトゥナのその瞳に居心地悪そうに肩を竦めると、ヒヅキは顔を前に戻す。
そんな周囲の様子に気を取られていたからか、気がつけば遠くにショッリの森の木々が薄く見え始めていた。
それにヒヅキはただでさえ早い移動速度を上げるも、フォルトゥナは難なく半歩後ろを付いてくる。エルフの国で戦っていたような存在が、この程度で後れを取るようなことはないのだろう。
それに安堵しつつ、ヒヅキはショッリの森から少し離れた場所まで移動して、足を止めた。
「ここで少し休憩しようと思う」
「はい! 見張りは任せてください!」
「…………お願い」
「はい! お任せください!!」
張り切って返事を寄越すフォルトゥナに、ヒヅキは少し困ったような笑みを浮かべるも、何も言わずに背嚢を降ろして、中から防水布を取り出してそれを地面に敷いて腰を下ろす。その隣にフォルトゥナも座る。
腰を下ろした後、背嚢から水瓶と容器を2つ取り出し、それぞれに水を注いでフォルトゥナにも渡す。
フォルトゥナは礼を言ってそれを受け取ると、ちびちびと大事そうに口を付けていく。
「あの、伺ってもよろしいでしょうか?」
「ん?」
ヒヅキがゆっくり水を飲んでると、フォルトゥナが覗き込むようにしながらヒヅキにそう声を掛ける。
「エルフの国に居る頃からいつもこうして下さる水ですが、同じ水瓶から水を注いでいる様にみえるのですが、気のせいでしょうか?」
そこまで大きな水瓶でもないというのに、水の補充もしないで水が出続ける事を不思議に感じたフォルトゥナが、そう問い掛けてきた。
「ああ、これは魔法の水瓶でね」
背嚢から水瓶を取り出しながら、ヒヅキは説明していく。
「エルフの国へと赴く前に、とある遺跡を探索した事があってね、その遺跡の奥でこれを見つけたんだ。なんでも、一定の時間に一定量までは水が出る水瓶らしくてね、その辺りはまだ詳しく分かっていないんだけど、時間の方は一日ぐらいで、量の方は一人で一日使っても枯渇しないぐらいは出るらしいよ」
「それは凄い魔法道具ですね!!」
「そうだね。おかげで旅先で水の心配をしなくて済むから助かってるんだ。飲める水を探すのも大変だからね」
そう言って、ヒヅキは小さく笑うと、水瓶から自分の容器に水を継ぎ足して背嚢の中に仕舞う。フォルトゥナの方は水があまり減っていなかったが、元々フォルトゥナは飲まず食わずでかなりの間生きていけるような存在なので、水自体無くても問題ないのだろう。
「はい! 水を飲んで体調を崩すという話はよく耳にしますから」
「荷物も減らせるから助かってるよ。これで身体だって拭けるからね。あとは食事だが、この辺りは中々難しいね」
街で調達するにも日持ちする食料というのは限られてくるので、どうしても同じ物ばかりになってしまう。それに、金も掛かるというのも問題であった。なので、旅をするにも何処かでたまに働かなければならない。
しかし、今のヒヅキは義手を買ったとはいえ、そこそこ手持ちが残っているので当分は心配なかったが。それに、大体旅の途中で森の恵みを確保しているので、今のところはそこまで困ってはいなかった。そこまで大量に食べなくても問題ないというのも関係していよう。
「見知らぬ土地では特に大変だね」
「そうですね。売ってくれない場合も在りますから」
売れないのか売らないのかというのも在るが、金を出せば必ず食料が買えるという訳ではないので、やはり食料の確保というのは、旅の中でも大変な部類なのだろう。
そんなことを思いながら水を飲み干すと、ヒヅキは背嚢の中に容器を仕舞った。




