フォルトゥナ31
服を収納し終えたのを確認したヒヅキは、もう帰ってこれないかもしれないが、他に持っていく物はないかとフォルトゥナに再度問い掛けるも、返ってくる答えは同じモノであった。しかし、直ぐに何かを思い出したフォルトゥナは、部屋の隅に無造作に置かれていた小さな袋を手に持ち、それを背嚢に仕舞った。
「それは?」
気になったヒヅキが問い掛けると、フォルトゥナは背嚢から袋を取り出しヒヅキに差し出す。
「お金です」
「お金?」
袋を受け取ったヒヅキは、口を開いてその中身を確認する。すると、そこには大量のエルフ硬貨が犇めいていた。
「この袋は魔法道具なの?」
「はい! それだけでこの背嚢以上の容量があります!」
「そうなんだ」
袋をフォルトゥナに返すと、ヒヅキは感心したような声を出す。その見た目と内容量を考えれば、かなり高額な魔法道具であるのが理解出来た。少なくとも、ヒヅキの持つ背嚢が子供騙しに思えるほどの差があるだろう。
フォルトゥナが背嚢に袋を仕舞ったのを確認したヒヅキは、背嚢を背負いながら他に何も持っていく物は無いと告げるフォルトゥナの言葉に頷いて家を出る。その後に続いてフォルトゥナも家を出ると、二人はカーディニア王国側へと向けて町を出る。
正直なところヒヅキにとってフォルトゥナも、後に合流予定のエイン達も等しく邪魔でしかなかったものの、それだけでしかなかった。少なくとも、ウィンディーネのように殺意を抱いている相手ではない為に、付いてくる分には構わないかと考えているところがあった。
そんなフォルトゥナは、早速ヒヅキの役に立っていた。
町からカーディニア王国への道のりは一度通っている為に迷う事はないが、行きでは道中でスキア相手に身体の感覚の調整をしたために、ヒヅキの覚えている道は少々迂回するような道であった。しかしそれはフォルトゥナの案内のおかげで解決し、二人は問題なく真っすぐに森の中を進む。
町を出て数日。流石にフォルトゥナは森の中の移動に慣れていた為に、かなりの速度で進むことが出来た。
カーディニア王国とエルフの国の国境は、フォルトゥナの存在で止まることなく通り抜けられた。カーディニア王国側は、エインから貰った通行手形が効力を発揮したので、こちらも何も問題なく通過する。
森を抜けた先に在るカーディニア王国に到着すると、久しぶりの開けた視界に、開放感を味わいヒヅキは伸びをした。
「この辺りの景色は大して変わらないな」
草が生えている以外には何も無い景色。後ろに国境を護る砦が在るも、他の建物は遠くにも見えない。
ヒヅキはそんな景色を少し見た後、ガーデンへ向かう為に移動を開始する。
フォルトゥナは森の外に出たのは初めてらしいが、特に周囲に興味を持つでもなく、ヒヅキの半歩後ろを大人しくついてきている。
ヒヅキはヒヅキでフォルトゥナのことはあまり気にしていないようで、一応視界の隅に捉えているが、それは視界の範囲にフォルトゥナが歩いているだけに過ぎない。
ウィンディーネはフォルトゥナの家を出てからは、姿を消したまま周囲を漂っている。
(村へは、今回もまぁいいか)
踏み固められているとはいえ、獣道のような気持ち程度の道を進みながら、ヒヅキは道中で近くを通るカイルの村に寄ろうかと僅かに考えたものの、特に用事も無いので行きと同じで寄らない事にした。
(それにしても、ここらはのんびりとした時間が流れているし、国境警備は無事だったということは、スキアはこちらに流れてきていないのか?)
エルフの国から何処かへと移動したスキアの行き先を考え、ヒヅキは内心で首を捻る。
「そういえば、エルフの国で国境警備に従事していた兵士達は、あの後どうなるんだろうか? 国は亡くなったようなものだし」
フォルトゥナの方に顔を向けて問い掛けると、フォルトゥナは少し考え、口を開く。
「通常は遠話にて情報のやり取りをしていますが、それが途切れた事には気がついている様子でしたので、首都に確認の兵士を送っている最中なんだと存じます」
「そういえば、何か訊きたそうだったね」
「はい。面倒だったので質問はさせませんでしたが。今後はおそらく、首都から帰ってきた者が国が亡くなった事を伝えるので、そのまま解散でもするのではないでしょうか? もしくは王族でも探すかもしれませんが、無駄な努力ですね。…………ああ、もしかしたら、あの町に住みつくかもしれません。エルフの国最後の町として」
「なるほど」
ヒヅキは興味なさげに頷く。質問してみたはいいものの、別に興味があった訳ではなく、ただ思いついたから訊いただけであった。
「まぁ、あとは世界がどうなるか、かな」
「はい」
結局、そこをどうにかしなければ、国が残ろうが亡ぼうが関係なかった。
「そのためにも、人探しをしないといけないけれど…………ああ、そうだ。フォルトゥナは遠話が使えるんだよね?」
「はい」
「じゃあ、線を繋いでおこうか。私も遠話は使えるから」
「流石はヒヅキ様です!」
ヒヅキの言葉に驚きながらも、フォルトゥナは満天の星のような輝きを宿す瞳で語っていた。ヒヅキなら出来ても不思議ではないと。
それに気づいて少々居心地の悪い顔をしながらも、ヒヅキはフォルトゥナとの間に魔力の線を繋いだのだった。




