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フォルトゥナ23

 室内は狭くとも高さはそこそこあるので、立って移動する分には問題ない。しかし、それでも二人ではやはり狭く感じる。

「粗末なベッドしかありませんが、遠慮なさらずにお掛けください」

 フォルトゥナは唯一置かれているベッドを手のひらで示して、ヒヅキへと勧める。それに逡巡したヒヅキは、フォルトゥナの言葉に甘えてベッドに腰掛けた。

 ヒヅキがベッドに座ると、フォルトゥナは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 しかし、そのまま入り口近くに立ったまま動こうとしないフォルトゥナに、ヒヅキは小さく首を傾げる。

「私が言うのもおかしいが、フォルトゥナも座ったら?」

「よ、よろしいのですか!?」

「? 勿論。ここはフォルトゥナの家な訳だし」

「で、では…………」

 ヒヅキの言葉に、フォルトゥナは緊張した面持ちながら、ヒヅキの真横に腰掛けた。

「…………」

 ぴったりと隙間なくくっ付いて座るフォルトゥナに、ヒヅキはどうしたものかと目を向けるも、ベッドがそこまで大きくはないので、離れると言っても拳2つか3つ分ぐらいだろう。なので、それについて指摘するのは諦めた。フォルトゥナが密着してきて不快ということはなかったのも大きな理由だろう。

「そういえば、先日首都に行ったら亡んでたけれど、首都の防衛は諦めたの?」

「はい。あの者達は幾度警告しても神聖な名を汚すので、見捨てました」

「なるほど」

「首都に何か御用がおありでしたか?」

「いや、首都を遠巻きに見に行っただけ。用と言っても、図書館の本を調べたかったぐらいだけれど、そもそも首都にエルフ以外は入れなかったらしいからね」

「図書館、ですか?」

「うん。ちょっと調べ物をね」

「どの様なモノでしょうか? あそこの図書館が所蔵していた本でしたら、全て記憶しておりますが」

「全て?」

「はい! いつかヒヅキ様のお役に立てればと、知識も収集しておりました!」

「そうか。それは凄いな」

 ヒヅキは首都で見た図書館址の広さと、そこに落ちていた本の数を思い出し、それを全て記憶している事の凄さに感嘆の声を出した。

「へへ。ですから、私の身も心も、この頭の中身も全てヒヅキ様のモノですから、如何様にもお役立てください」

「…………それはありがたいけれど、フォルトゥナはフォルトゥナとして好きに生きればいいさ」

「はい! ですから、ヒヅキ様に全てを捧げたいのです!!」

 目を爛々と輝かせるフォルトゥナに、ヒヅキは狂気の光を僅かに見る。

 フォルトゥナの生い立ちを思えば、何かに縋りたいと思う気持ちをヒヅキは理解していたが、それがたまたま自分だっただけに過ぎないこともまた理解していた。

 ヒヅキよりも強く、おそらく知識も幅広い。また美しいフォルトゥナは、様々な場面で役に立つのだろうが、知識はともかくとして、他はヒヅキにとっては無用な長物でしかない。

(ただでさえウィンディーネに加えて、これからカーディニア王国に戻るとエイン殿下達が付いてくることになっているというのに、これ以上増えるのは勘弁願いたい)

 自衛できるという点では評価しているものの、現在はウィンディーネの相手だけでいっぱいいっぱいなので、ヒヅキはこれ以上面倒事は避けたかった。しかしフォルトゥナを見るに、諦めさせるのは至難の業だろうことは容易に想像がつく。

(さて、どうしたものか…………)

「それにこうして迎えに来ていただけて、私はとても嬉しいのです」

「迎え?」

「はい! 昔、迎えに来ると約束してくださいました、あの約束です!」

 フォルトゥナの話に、ヒヅキは内心ではてと首を傾げる。フォルトゥナとした約束など、再開の約束ぐらいしか思いつかなかった。

「…………そのネックレスを取りに来るとは約束したけれど」

「はい! それに、私が生きる姿が見たいとも仰いました。ですから、これからは御傍に置いて頂き、近くで見守っていてください!」

(ん? そんな約束をしたか?)

 ヒヅキは必死になって頭の中を探る。

 ところどころ記憶が曖昧になってはいるが、フォルトゥナと約束した辺りの記憶は比較的覚えている部分が多い。その為に、祈るように見詰めてくるフォルトゥナを眺めながら、ヒヅキはその時の記憶を辿っていく。

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