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会議

 ショッリの森の中にはひっそりと存在する村がある。

 その村は一応王国の記録に存在するのだが、表記は“村”としか書かれておらず、そもそもその記録は古いものであるために、村の存在自体を覚えている者は今の王国にはほとんど存在していなかった。

 そんな忘れられた名も無き村は周辺に存在する人が住む街とは違う特徴があった。それは、多種族が共生しているということ。

 無論、他の人の街でも多種族が暮らしている場所はあるのだが、ここでは他とは違い人種の方が少数派であるために種族そのものの垣根が無いに等しく、また村に来た理由は違えど、皆はその村を故郷だと心の底から想い、村人同士家族のように助け合っていた。

 その村は人は勿論のこと、ドワーフにエルフに、人やエルフの世界で蔑まれがちなハーフエルフまでもが村に帰属し、他にも鬼や魔族などが様々な理由から集まり、互いに助け合いながら静かに暮らしていた。

 そんな村にかつてないほどに緊迫した空気が満ちていた。

 それもそのはずで、何せこれからの成り行き如何いかんによっては冗談抜きで村の存続と自分たちの命が懸かっているのだから。

「やはり一度森を出るべきではないか?」

 だから魔族特有の青白い肌を持つ男性がこう発言するのも当然の流れと言えた。しかし、

「森の外に出て、それからどうします?我らに居場所が在ると本当にお思いで?在っても散り散りになるのは目に見えていますよ」

 眼鏡を掛けた頭に小さな角を生やした男性の発言に、魔族の男性は反論出来ずに黙り込む。

 実際問題として、森の外は人種の世界なのである。

 エルフやドワーフはカーディニア王国とは友好国なので街には住めるだろうが、それでも差別が全く無いとはいう訳ではないし、定期的に人種の国に攻めては略奪と殺戮を繰り返す鬼に至ってはさすがに居場所がなかった。下手すれば生きて国を出るどころか、兵に見つかり次第問答無用で殺される可能性だってある。

 他にも、人種の国とは目立ったいさかいこそ無いが、かといって別段友好国という訳でも無い魔族は、どちらかと言えば人に恐れられている存在という意味では微妙なところではあるし、獣人族などはカーディニア王国の北側にある国“キャトル”と現在も戦争中で、直ぐ近くで戦われているカーディニア王国民の印象としてはあまりよろしくは無かった。

 同種族間でも争いが絶えないのだ、当然ながら異種族間の壁は厚く、理解しあうにはそれなりの時間を要する。それも、種族の数が増えれば増えるほどに複雑化していく。

 魔族の男性もそれを理解しているからこそ沈黙したのだった。

「では、どこか新たな場所に村を移すというのは?」

「そんな土地がどこにありますか?この地でさえ、我々のご先祖様たちが尽力されたおかげでなんとか認められているというのに………」

 人と同じような身体に犬のような顔をした獣人と呼ばれる種族の男性の発言に、人種の男性は即座に反論すると、力無く首を横に振った。

「では少し遠いですが、コズスィはどうでしょうか?あそこは様々な種族が共存していると聞きますが」

 人に似た姿でありながら、強大な力を持つ者が多い竜人と言われる種族の女性のその発言に、場に苦笑めいた空気が漂う。

「いや、あそこは止めた方がいいでしょう」

「なんだかんだと都合の良いことを宣伝してはいるが、しょせんは宗教国家だからな。それも国民のほとんどが狂信に近い危険な国家だ」

 場に微妙な空気が流れる。こんな空気になる元となった発言をした竜人の女性は、申し訳なさそうに縮こまってしまう。

「……話を戻すが、ではどうしようかの?逃げないならもう念のために戦いに備えて防備を厚くしておくしか無いような気もするがの」

 村長の発言に、今まで静かに皆の話を聞いていたエルフの男性が手を挙げる。

「その前に根本的な確認ですが、森の中で確認できたスキアの数は何体ですか?」

「マンスの話では四体らしい」

 場にどよめきが走る。

 個体差はあるが、ほとんどのスキアは遠近全てに攻撃手段があり、またどの攻撃も威力が非常に高く、かすっただけで部位が減ることさえあるほどであった。

 それでいながら身体は刃を容易には通さない硬度を誇り、俊敏さも目で追うのが困難なほどの速度であった。

 更には知能もそれなりに有するその化け物は、一体倒すのに軍隊を動かす必要があると言われるほどであった。

 それが確認されているだけで四体、正直あらん限りの時間を掛けて出来うる限りの防備を固めて、村人総出で後先考えずに全力全開で挑んだとしても1日と待たずに村は無くなるほどの戦力であった。

 そんな絶望的な状況でも最後まで守りたいものというものは存在するもので、圧倒的な戦力差の前に皆が黙り込むなか、それでも村人たちは決意する、この村を最後まで守ることを。

 それでも当然ながら無謀な戦いなど出来れば起きない方が望ましいもの、スキアが村に来ないことを村人の誰もが切に願ったのであった。

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