フォルトゥナ13
開いた扉の先は、通路であった。
「ふむ? ここが最上階か?」
ヒヅキは扉から出て周囲を見渡す。真っすぐ延びる通路の左右には建物址が続くだけで、広い空間が拡がっている。
「…………いや、まだ上が在るな」
更に上層にスキアの気配を感じ、ヒヅキは一度天井に目を向けて呟く。
「それに、残っていたエルフの反応も消えたな。これでエルフの首都は潰滅か」
気配を探り、そう結論付けたヒヅキは、目的のモノを探して階層内を駆けていく。
上層へと続く階段は直ぐに見つかったものの、図書館のようなものは見つからない。上層へ一気に移動できるような仕掛けもないが、おそらく次が最上層だと感じたヒヅキは、それについてはあまり気にしなかった。
途中遭遇したスキアを消しながら進み、階層中を調べたが、目的のモノは見当たらない。
「しかし、ここは全体が兵舎だったのか?」
数日掛けて階層中を駆け回り構造を把握したヒヅキは、そこから推察できる答えを口にする。
「下の階層もだけれど、あんまり意味がなかったな」
無残に壊されている光景に、ヒヅキは興味なさそうに呟くと、呆れたように肩を竦めた。
「さて、一通り見て回ったから、一度休憩を挿んだら上層へと行くとするかな」
周囲の安全を確かめたヒヅキは、ウィンディーネにあとの警戒を頼むと、背嚢を枕代わりに頭の下に敷いて横になり、短時間の睡眠を取ることにする。
ヒヅキは数十分程睡眠を取ると、周囲を探りながら目を覚まし、上体を起こして伸びをする。
「水瓶は、っと」
枕代わりに頭の下に敷いていた背嚢の中から水瓶と容器を取り出し、ヒヅキは水を一杯飲む。
「ふぅ。相変わらずこれは便利だな」
水瓶をまじまじと眺めた後、もう一杯水を飲んでから、水瓶と容器を背嚢の中に仕舞う。
「さて、上に行くか」
背嚢を背負って立ち上がると、ヒヅキは軽く身体を動かし、近くに在る上層へと続く階段の方へ目を向けた。
「これでエルフの首都探索も全て終わりかな」
途中何層も飛ばしているので厳密には違うのだろうが、そういうことにしてヒヅキは階段を使う。
今までよりも多少長い階段を上って上層へと出ると、すぐさまスキアが現れ襲ってくる。しかし、それを軽く返り討ちにした後、ヒヅキは周囲を見渡して階層の様子を窺っていく。
「ここも他と変わらないか」
他の階層と同じように瓦礫の山と化したその階層は、元は優美な造りだったのだろう。今までの中で一番瓦礫の山に色がついている。
「上にスキアの反応は無いが、ここが最上層でいいのだろうか?」
そう思いながら、ヒヅキは階層内を駆けていく。
「ほぉ、ここからは外の景色が眺められるのか」
途中で壁際に透明な何かが嵌め込まれている小さい枠が在り、ヒヅキは興味深げにそこに近づく。
「ふむ……これは硝子ではない、よな?」
枠に嵌め込まれた透明な板に目を向けながら、ヒヅキは首を捻る。
そうして一頻り観察した後に、ヒヅキは意を決してそっとその板に触れてみた。
「ん? ツルツルとしているが、まるで氷のように冷たいな。それに、硬い?」
触れた指先から感じる確かな反応に、ヒヅキは板を軽く叩いてみる。そうすると、石でも叩いているような硬質な音が返ってきた。
それから少し距離を置きしばらく観察したヒヅキだったが、よく判らないと諦める。ただ、微かにその透明な板からは魔力の反応を帯びているのを感じられたので、何らかの魔法道具なのかもしれない。
「まぁいいや。今はこれに構っている暇はないからな」
近くに感じるスキアの気配にヒヅキは一度そちらへと顔を向けるも直ぐに顔を戻し、この階層の探索はまだほとんどしていないのだからと、脚に力を入れて駆けだす。おそらく最上層に到着したので、後は図書館などの保管庫で何かしらの記録を見つけて調べるだけであった。




