風雲急
ショッリの森はプスィヒ平原の4割ほどの広さを誇る広大な森で、木々の間隔は狭く、密度が高いのが特徴の森であった。
そのため木々により日光のほとんどが遮られた薄闇の広がる、外よりも涼しい空間ではあったが、不思議とじめじめとはしていなかった。
そんな未明の森の中を一人の青年が焦りをにじませた顔のまま息せき切って疾走する。
「ハァ、ハァ、ハァ」
青年はカーディニア王国の一般的な国民よりも長く、先がピンと尖った特徴的な耳をしていた。それはまるでエルフと呼ばれるカーディニア王国の南側に存在する国の民の特徴に似てはいたが、一般的なエルフのそれよりも半分ほどの長さしかなく、ハーフエルフと呼ばれるエルフと人の間に産まれた混血児であった。
「なんでこんなところに奴らが居るんだよ!しかもあんなにたくさん!」
ハーフエルフの青年は、うねうねとのたくる様に地表まで生えてきている木の根をものともせずに森の中を駆け抜けると、木々の合間に突然ぽっかりと開けた空間に出る。
上空から見ると森に突然ぽっかりと穴が空いたように見えるその空間には村があった。
ハーフエルフの青年はその村に駆け込むように入っていく。
その異常な様子を目撃した近くにいた村人が驚いてハーフエルフの青年に声を掛ける。
「マンスよ!そんなに慌ててどうしたんだ!?」
マンスと呼ばれたハーフエルフの青年は、その村人に手のひらを向けると、
「まずは村長に!」
それだけ言うと、マンスは村の中央に建つ一番立派な建物に走っていく。
「村長!村長は居られますか!」
マンスは扉を強く叩きながら声をあげる。扉の前で数度呼び掛けると、やっと一人の背の低い男性が姿を現した。
「村長!大変です!」
マンスはその男性に勢いよく顔を近づける。
この村の村長はドワーフと呼ばれる種族で、ドワーフの特徴通りに背が低く、顔の半分以上を髭で覆われた姿をしていた。
ちなみに、カーディニア王国の東側にドワーフの国はある。
「なんじゃいいきなり。マンスや、とりあえず落ち着きなされ」
村長はマンスの勢いに顔をしかめると、手をマンスの顔の前に持ってきてゆっくりと語りかける。
それで多少の冷静さが戻ってきたマンスは顔を離すと、真剣な顔でたった今持ち帰ってきた情報を村長に伝えた。
「村長、この森にスキアが現れました」