魔法道具83
宿屋に戻ると、食堂で用意された夕食を食べて、自室で眠る。
翌日も似たような日々を過ごした後、その次の日にはヒヅキは鍛冶屋に顔を出した。
「お? 来たか。調整は終わってるぞ」
勘定台の奥側に座っていた店主は、ヒヅキを確認すると、勘定台の下から義手を取り出す。
「ありがとうございます」
勘定台に近づいたヒヅキは、義手を受け取り左手に嵌めていく。
「手伝うか?」
「いえ。こういうのは慣れが必要ですから」
「は。そうだな」
ヒヅキの言葉に感心したように頷いた店主は、勘定台の奥に置かれた椅子に腰かけたまま、その様子を眺めていく。
まだ最初に教えてもらった時に義手を付けただけなので、手際はぎこちないものではあったが、それでも問題なく義手を腕に取りつけることに成功する。
「どうだ?」
義手を動かして調子を確かめたヒヅキは、店主へと頷きを返す。
「問題ありません。あとは魔力を通すだけですが……」
そこでヒヅキは言葉を詰まらせる。この場で光る剣を出してもいいものかと。
しかし少し考え、発現する直前に消せばいいかと思い直す。違和感は光の剣が発現する前に既に感じていたので、途中で魔力を霧散させたとしても問題ないだろう。
「少し試してみます」
「店を壊さないようにしてくれよ」
「はい」
店主の冗談めかした言葉に、苦笑めいた笑みを返したヒヅキは、義手に意識を集中させていく。
意識を集中させた義手へと、魔力を流していく。そうして腕に魔力を通していき、手のひらにそれが集約していくと、その魔力が何かの形を模ろうと変化した瞬間に、、魔力の供給を断つ。
それにより、集約されていた魔力は形を崩して霧散したものの、魔力を通す過程で前回感じたような違和感は何も感じる事はなかった。なので、ヒヅキはその事を店主に伝える。
「今回は引っ掛かるような違和感はありませんでしたので、これで問題ないと思います」
「逆に余裕がありすぎるとかもなかったか?」
店主の問いに、ヒヅキは魔力を通して感覚を確かめる間を置く。
正直、ヒヅキには魔力経路に余裕があるのかどうかはいまいちよく分からなかったが、それでも窮屈な感じはしなかったし、無駄な感じはあまりしなかったので、ヒヅキは店主の方を向いて頷きを返す。
「はい。おかしなところはなかったと思います」
そのヒヅキの報告を聞いた店主は、にかりと見た目に合った豪快な笑みを浮かべる。
「そうか。そうか! やはりお前さんは凄いな」
「? どういう意味でしょうか?」
「いや、何。とりあえず最初ということで、魔力経路を少し広めに取ってみたんだよ。そうしたら、それで問題ないとくれば、お前さんの魔力量と魔法の凄まじさが窺えるというものだよ」
「そう、だったんですか。しかし、これは単に私の魔力操作が下手で、一気に魔力を流し込んでしまうだけでだと思いますが」
「はははっ! お前さんは嘘が下手だな」
店主は豪快に笑うも、直ぐにその笑いを引っ込めて、目を細めてヒヅキの方を見つめる。
「そんだけ巧みに魔力操作が行える奴なんて、エルフでもそうそう居やしない。そんな奴が魔法の発現に大量の魔力を使用するということは、それは自身の魔力量もだが、それだけの魔力を必要とする魔法の方も凄まじいということさ!」
小さく笑った店主の言葉に、ヒヅキはそんな判断の仕方も在るのかと感心して何度か頷く。
「それは流石に買いかぶりすぎですよ」
しかしだからといって、ヒヅキは店主に事実を語るつもりはなかった。
そんなヒヅキの様子から何かを察したのか、店主は「そういうことにしておくさ」 と言って小さく肩を竦める。
「まぁいいさ。それで、義手の使い勝手は変わらず良好か?」
「はい。義手である事を忘れてしまいそうなほどです」
「そりゃよかった」
ヒヅキの返答に自信満々といったように胸を張る店主。それだけ技術というものに誇りがあるということだろう。