魔法道具80
ヒヅキは自室に戻ると、机の上に置いていた人形を手にベッドに腰掛ける。
「それじゃ、早速続きをはじめますか」
あとは寝るだけなので、今の内に人形に生命力を注いでいく事にしたヒヅキは、ベッドに横になって直ぐにでも寝れる体勢を取ってから、人形へと生命力を注いでいく。
注ぐ生命力の量は少しずつで、ゆっくりと急がないように気を付けながら行っていく。
「せめてどれぐらい必要なのか判ればいいのだが」
人形へと生命力を注ぎつつ、人形の中身がどれぐらい満たされているのか判らないかと、目を細めたり、人形の角度を変えたりして眺めてみるも、それでは何も判らない。
次に自分の右手を見ながら、自分の生命力について判らないかと考えるも、それも無駄な努力に終わる。
生命力というモノが分からないヒヅキでは、それを知ることは無理であった。
「はぁ」
人形へと生命力を注いで疲れてきたヒヅキは、ひとつ息を吐いて作業を中断する。
「今日はもう寝よう」
そういうことにして、ヒヅキは手元の人形を枕元に置いて、そのまま眠りに落ちていった。
翌日。目を覚ましたヒヅキは、人形を背嚢に仕舞ってから水を飲むと、リケサに呼ばれて食堂へ移動して朝食を摂った。
朝食後は背嚢を背負って外に出ると、まずは昨日感じた、魔法を発動させようと義手に魔力を通すと、何かしらの引っ掛かりがある事について尋ねる為に、鍛冶屋を訪れる。
「ん? どうした? そいつの調子でも悪くなったのか?」
鍛冶屋に入ると、店主が不審そうに義手へと目を向けてくる。
「いえ、そうではないのですが――」
ヒヅキは店主へと、感じた違和感についての説明を行っていく。
それを一通り聞き終えると、店主は勘定台を回って表に出て義手を手に取り確認する。
「ふむ。義手自体は正常にみえるが……」
そう呟きながら店主は鋭い目を義手へと注いでいくと、しばらくして、難しい顔をヒヅキに向けた。
「大体分かったが、お前さん……意外ととんでもない奴だったんだな。いや、直ぐにこれを使いこなせた時点で判ってはいたがよ」
呆れたようにも聞こえるその言葉に、ヒヅキは何の事かと首を捻る。
「お前さんが感じた引っ掛かりというやつだがな、それはおそらく、お前さんの魔力量が多き過ぎて、この義手に埋め込んだ魔力回路が窮屈なのが原因だと考えられる」
「そう、なんですか」
店主の説明を聞いたヒヅキは、軽く驚きながら義手へと視線を落とす。
しかし、ヒヅキはウィンディーネから、ヒヅキの魔力量は普通以上ではあるが、そこまで量が多い訳ではないという話を聞いていたので、内心で僅かに首を捻るも、その程度で専門家であり製作者でもある相手の見立てに口を挿んだりはしない。
「だから、解決策としてはその魔力回路を拡張することだが、その場合は一度義手を外さなければならない」
「お願いします」
ヒヅキは店主の言葉に即答する。流石にそれは予想していなかったのか、店主は面食らったような表情を見せたが、直ぐに咳払いをして元の厳めしい顔に戻した。
「そうか。ならば一度外すぞ! 何、今回はこちらの不手際だから、追加料金を取ったりはしないから安心しろ」
そう冗談っぽく言って店主は笑みを浮かべるも、それは猛獣が威嚇しているかの様に凶悪な表情をしていた。
「ありがとうございます」
しかし、ヒヅキは微塵も気にせず礼を述べると、早速義手の取り外し作業に入る。
今回は取り付け方や取り外し方を覚えてもらうためのものではないので、作業自体は直ぐに終わった。
「それじゃあ、また鍛え直してくるから、大体十日ほど様子を見てくれ」
「分かりました」
義手を丁寧に扱いながら、店主は軽く掲げてそう告げてきたので、ヒヅキはそれに快く頷きを返す。
「それでは、十日経ったらまた伺わせていただきます」
「ああ。出来るだけそれに間に合うようにはしておくよ」
ヒヅキがそう一言告げると、店主がしっかりと頷いてくれる。それを確認したヒヅキは、鍛冶屋をあとにした。