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魔法道具71

「そもそも彼の御方は、現在の神の前に居られたという、三柱の神の一柱が創造した存在だという話だ」

「そうなのですか」

「まぁもっとも、我も詳しくは知らないがな」

 少しお道化るような声音でそう告げたグノムに、ヒヅキは謝意を込めて頭を下げた。

「それで。この心臓の欠片は、このままでいいのですか?」

 小箱を少し持ち上げたヒヅキがグノムに問い掛けると、グノムは少し思案するような間を空ける。

「……我も確実なことは言えぬが、その欠片は揃えば勝手に心臓として機能する形に変化するのだと思う」

「そうなのですか……」

 ヒヅキは小箱の方へと目線を落とすと、軽くその小箱を揺する。それで中の水晶の欠片が小箱の壁にぶつかる小さな音が響く。

 少しの間小箱に目線を落としていたヒヅキは、足元に降ろしていた背嚢の中に手元の小箱を仕舞ってから、背嚢を背負い直す。

「最後にもう一つお尋ねしたいのですが、宜しいでしょうか?」

 肩を動かして背負い直したばかりの背嚢の位置を確かめていたヒヅキは、思い出したようにグノムの方を向く。

「なんだ? 折角だ、我に答えられる事であれば答えよう」

「では、先程話に上がった心臓の持ち主は、今どこに居るのか分かりますか?」

「はて、それは知らぬな。心臓を砕かれているのだから動けぬのだろうが……確実ではないな。何せ、神が唯一恐れた存在なのだからな」

「そうでしたか。お答えいただきありがとうございます」

 ヒヅキは再度謝意を込めて深く頭を下げた。ウィンディーネと同格の存在だというのに、ウィンディーネと違いしっかりと問いに答えてくれたグノムに、心の底から感謝しながら。

 勿論、ヒヅキもグノムが全てを語ったとは思っていないが、それでもウィンディーネなどよりもずっと寛大で頼りになった。

「また来るといい。そこの者を剥がせぬのは、己が未熟を痛感してしまうが、その詫びに困った事があれば多少の融通はしよう」

「寛大な御心痛み入ります」

 そう言ってお辞儀をすると、ヒヅキは視界の端で不機嫌そうなウィンディーネの姿を捉えた。しかし、それに構うつもりも無いので、グノムに断って前を辞すと、森の中を町目指して進んでいく。

「まったく、失礼なものよね」

 グノムの前から離れ、町へと森の中を進んでいると、ヒヅキの隣でずっと黙っていたウィンディーネが、不機嫌さを隠しもしない声音を出した。

 ヒヅキはそれに一瞥だけするも、特に何も返さずに森の中を進んでいく。

 そんなヒヅキの反応に、ウィンディーネは少しむくれたような表情をみせる。

「ヒヅキもあっちの肩を持つし」

 肩を竦めるような仕草を見せたウィンディーネを視界の端で捉え、ヒヅキは呆れたように息を吐く。

「当然でしょう。ウィンディーネに味方をする理由がありませんから」

「あら? ここまで一緒に旅した仲じゃない?」

「勝手についてきただけでしょう? 感謝している部分があるのは認めますが、それでも、私はウィンディーネを信用していませんから」

「あら、手厳しいわね」

 ウィンディーネを拒絶するヒヅキへと、ウィンディーネは楽しげに言葉を返す。それに、これももう何度目だろうかと、ヒヅキは内心で嘆息して進行方向へと目線を戻す。

「それに、ウィンディーネは何も答えてくれませんから」

 ヒヅキの呪詛でも吐くような暗い雰囲気を漂わせた言葉に、ウィンディーネはクスクスと笑みを零す。

「あら? 拗ねているのかしら?」

 楽しげなウィンディーネの言葉に、一瞬こめかみの辺りを動かしたヒヅキだが、努めて無視して歩いていく。

 そんなヒヅキの隣で、ウィンディーネは気分を害した風もなく、むしろ先程よりも機嫌がよくなったかのように嫌らしい笑みを浮かべると、楽しそうに隣でヒヅキをからかうのであった。

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