魔法道具68
スキアの気配を探っていき、見つけては片っ端から狩っていく。
それを繰り返して日が暮れるも、それで止まることなく、森の中を駆け回ってスキアの相手をする。
「やはり少ないですね」
夜が更けても、1日で倒したスキアの数は精々が二十体ほど。およそスキアに襲撃を受けているとは思えないほどに少なく、首都方面では近場の気配を探るだけでもそれぐらいは見つけられた。
そのことを不思議に思いつつ、もしかしたら狙いはスキアではなく、この付近に以前ウィンディーネの話にあったスキアを生み出す為の場所でもあるのかもしれないとも考え、慎重にグノムの依頼をこなしていく。
しかし、それから更に1日が経ち、約束の3日が経過しても、結局ほとんどスキアとは遭遇せず、おかしな場所も確認出来なかった。スキアの討伐数は合計で百も行かないどころか、その半分程しか発見することは出来なかった。
それに疑問は更に深まったが、とりあえず約束は果たしたとして、明け方にグノムの住まう場所へと向けて移動を開始する。
程なくして、ヒヅキは大木に姿を変えているグノムの前に到着した。
「依頼の完遂ご苦労」
目の前に来たヒヅキが何かを発する前に、グノムは何処から声を出しているのか分からない大木姿のまま声を発すると、身体を震わせながら木の根を土の中から持ち上げて地面に着けると、立ち上がるように身体を浮かせた。
「では、報告を致します」
そんなグノムに軽く一礼した後、ヒヅキは討伐結果だけを簡潔に述べた。
ヒヅキから報告を受けたグノムは、大木を僅かに揺すり、葉が擦れる音を周囲に響かせて笑い声をあげる。
「そうか。期待通りの成果を上げてくれたか」
どことなく機嫌のよさそうなグノムに、ヒヅキは意を決してスキア討伐中にずっと感じていた疑問を投げかけてみた。
「1つ、お伺いしたいのですが」
「なんだ? 言ってみるがいい」
グノムの許可に、ヒヅキは感謝するように首肯すると、口を開く。
「私が依頼を受けましたスキア討伐ですが、指定範囲内のスキアの数はあまりに少なく、私が出るほどでもなかったと思うのですが……」
「そうだな。しかし、我らは滅多な事ではスキアを害さないからな。少なくともどうも出来んのだ」
困ったようなその言葉に、ヒヅキは一定の納得はしたが、しかしそれではまだ弱い。
「しかし、この付近に姿を見せたという訳でもないと思うのですが」
3日間ヒヅキは範囲内を走り回りスキアを討伐したが、それで判った事に、スキアはスキアでグノムの周辺は避けているのか、一定の範囲内ではスキアを見掛ける事はなかった。それは気配察知でも同じ結果であった。
なので、その事をヒヅキが続けて語ると、グノムはなおも機嫌よさそうに身体を揺する。とそこに、背後から実体化したウィンディーネが、不機嫌さを隠そうともしない声を挿む。
「そこの焚き火の燃料は、ヒヅキの実力を試したのよ」
「どういう意味でしょうか?」
ウィンディーネの方に顔を向けたヒヅキは、首を傾げる。
「さぁね。何かしら頼み事でもあるんじゃない?」
呆れたようにそう言いながら、ウィンディーネはグノムの方へと問うような視線を送る。
それを受けたグノムは、僅かに身体を揺すり、それに応えた。
「そんな大層なものではないさ。それよりも、君の願いを先に聞こう」
グノムはヒヅキへと、少し優しげな声音で語り掛ける。それを受けて、ヒヅキは一度ウィンディーネの方へと目を向けて、グノムの方へと視線を戻す。
「では、情報を戴きたく」
「情報? 何のだね?」
問い掛けるグノムへと、ヒヅキは右手に光の剣を出し、それを掲げる様にして見せる。
「この光の魔法について、何か情報があればお訊きしたく」
ヒヅキが掲げた光の剣へと意識を向けたグノムは、少し間を置いて答える。
「ふむ、そうだな。それは光の剣だな」
「はい。これ以外にも光球やそれを放って爆発させるのもあるのですが……」
探るような声音のヒヅキに、グノムは再度少し間を置いて、言葉を発した。