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夢現

 宿屋の借りている部屋に戻ってきたヒヅキはどさりとベッドに腰掛ける。

「何だか疲れたな」

 そのまま横に倒れると、脚に僅かな違和感を感じてズボンのポケットに何か入っていることに気がつく。

「あぁ、そういえば……」

 それがギルドハウスに連れていかれる前に寄った雑貨屋で購入した木の板のようなもので作られ、それで人の形を象った何だかよく分からない代物だったと思い出したヒヅキは、それをポケットから取り出した。

「色々あってすっかり忘れていたよ」

 それを目の前に持ってくると、語りかけるように呟く。

 それだけで今日1日の出来事が頭を過り、どっと疲れが増したような気がした。

 ヒヅキはその何だかよく分からない人形を枕元にある物置に丁寧に置くと、ベッドに横になったまま天井を見上げる。

「次はガーデンに行こうかな。確か図書館で見た地図ではそんなに離れてなかったはずだから………ガーデンに着いたら何か仕事しないとな、手持ちに余裕があるうちに何とかしとかないと。それから―――」

 今後についてあれやこれやと考えていると不意に眠気に襲われたヒヅキは、気づかぬうちに眠りについていた。



「………つまらないな」

 そんな呟きが聞こえた気がしたヒヅキが目を開けると、そこは何処かの森の中であった。

「ここは……?」

 辺りを見回したヒヅキのその呟きに、

「幽遠の森、最果ての地、天上の大地、夢幻の狭間、天国、神の住まう場所等々……まぁ、様々な呼ばれ方をしている場所だね」

 少年とも少女ともつかない中性的な声が返ってくる。

「………何処に?」

 辺りを見渡すヒヅキだったが、その声の主の姿は見当たらなかった。

「ここだよ。だけど、そこには居ない……というよりも、君にはボクの姿は見えないよ」

 呆れたような声音でそう返ってくると、そのまま問い掛けられる。

「ねぇ、いつまでそうしてるの?」

 その意味不明な問い掛けに、ヒヅキは眉を寄せる。

「ボクを楽しませてよ、それが道化である君の役目なんだから」

「どういう意味……ですか?」

 声の主の意図が掴めないヒヅキは、慎重な声を出す。

「教えないと分からない?ならばそれまでとして見限るだけさ」

「………貴方は誰ですか?」

「君は状況を理解しているのかい?」

「……………」

「ここでは問い掛けるのはボクの役目。君はただ問われたことを答えるのが役目。分かった?」

「……………」

「まぁいいけどね、沈黙も立派な回答だ」

 迂闊に動かない方が良いと判断したヒヅキは、目だけを動かして必死に周囲を探る。

 その間も声の主の話は続いていた。

「それで、君はいつボクを楽しませてくれるのかな?もう退屈で全てを終わらせそうだよ」

「……終らせる?」

「………今のは独り言ということにしておくよ。それよりも、さっきの問いについてだけど………」

「……………」

「ふーーむ。まぁいいか、もう少し時間をあげるから存分にボクを楽しませておくれよ」

 声の主がそう言うと、急にヒヅキの視界が揺らぎだす。

 そして暗転する直前、

「じゃあまたね」

 先ほどまでの試すような冷たい声音と違い、どこか子どもじみた声でヒヅキはそう告げられたのだった。

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