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魔法道具64

 リケサと雑談を交わしながら朝食を食べ終えると、ヒヅキは自室から背嚢を回収してから、氷の女王の家へと向かって町の中を歩いていく。

 通い慣れた森の中をいつもと同じように進み、同じような時間に同じ場所に到着すると、同じ木に背を預けて同じ様に氷の女王の家へと目を向け続ける。

 そのまま昼頃になり、そんないつもの時の流れの中に、少しの変化が訪れた。

「…………雨、か」

 ヒヅキは急いで足下の背嚢の中から雨合羽を取り出すと、背嚢を背負いその上からそれを羽織る。今までにも雨が降った事はあったが、それも1、2度程度で、季節柄なのか、この辺りで雨の日というのは意外と珍しかった。

 昼頃にぽつぽつと降り始めた雨も、昼過ぎにはザーザーと音を強めて視界を悪くしていく。

 そんな中でも、ヒヅキはたいして身動ぎもせずに、木に軽く背を預けたまま、一心に氷の女王の家へと視線を注ぐ。しかし、帰宅するのは勿論、町全体に向けている気配察知にすら反応がない。

「中々帰って来ないな。首都はそんなに忙しいのか」

 ただでさえ厚い雨雲に遮られて暗い空がさらに暗くなってきたところで、空に視線を転じたヒヅキは、諦めて木から背を剥がす。

「かといって、首都には近づきたくないしな」

 困ったように息を吐きながら、雨の中を進んでいく。ついでに鍛冶屋の店主の動向を探ってみるも、鍛冶場に籠りっきりでほとんど動いていない。

「義手もいつになることやら」

 左腕に目を向けたヒヅキは、雨合羽の上から腕に手をやり、小さく息を吐いた。

 宿屋に到着すると、受付に居たリケサが何かを書いていた手を止めて、視線をヒヅキの方へと向ける。

「お帰り。……ちょっと待ってね」

 言うが早いか、リケサは受付台を探って手ぬぐいを手に取ると、入り口前に佇むヒヅキの前まで移動して、それを差し出す。

「ほら、これで拭いて。雨合羽はそこに掛けとけばいいからさ」

 リケサは玄関近くに置かれている、何も掛かっていない服掛けを指差した。

「ありがとうございます」

 玄関前で雨合羽を脱ぎ、外で軽く水気を払って宿屋の中に入ると、指示された場所に雨合羽を掛けてリケサから手ぬぐいを受け取り、濡れた毛先や顔を拭う。

 それが済むと、リケサは「準備が出来たら呼ぶから」 と言い残して、手ぬぐいを回収して食堂の方へと消えていった。

 それを見届ると、ヒヅキは一度雨合羽の方に目を向けてから、自室へと戻る。

「はぁ。やはり雨の日は外に出るものではないな」

 足下に目を向けたヒヅキは、裾が僅かに濡れた下衣を目にして、小さく息を吐く。

 ヒヅキは部屋に戻ると、部屋の明かりを点けてから背嚢を荷物入れの上に置いて椅子に腰かける。そうしてから机の上の本を手に取り、リケサが呼びに来るまで読んで待っていることにした。

「それにしても」

 未だに響く雨音を追って、ヒヅキは採光用の窓の方に目を向ける。

「こうして静かに聴いている分には、雨音も良いのだな。枝葉にぶつかってそこまで大きな音ではないのもいいな」

 そんな感想を抱きつつ優雅に本を読んでいると、扉を叩く音が室内に響く。雨だからか、いつもより若干強めだ。

 それに返事をして本を机の上に戻すと、明かりを消してから部屋を出て食堂に移動する。

 食堂では、いつものように料理の載った机を挟んでリケサと向かい合わせに座り、食前の祈りを捧げて夕食を食べ始める。

 他愛のない会話をしながら食事をしていき、最後に料理への感想と礼を言って、ヒヅキは食堂を後にした。

 その後は、明かりを点けた自室で黙々と本を読んでいき、その本を読み終えたのは夜も大分更けてからであったが、本を机の上に戻して部屋の明かりを消したヒヅキは、ベッドに横になり静かに意識を闇に沈めていった。そうすることで直ぐに睡眠を取ることが出来る事に感謝しながら。

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