魔法道具58
それぞれが好きな皿を取ってはそれを食べていく。1皿に盛りつけられている量は少ないので、直ぐに取った皿が空いていく。
それでも皿の数が多いので、やはり二人で食べても少々多い。
「元気になってよかったよ」
ヒヅキが黙々と朝食を食べていると、その様子を見たリケサが安心したような声音を出す。
「ああ、はい。昨夜はよく眠れたましたので」
「それはよかったよ」
笑みを浮かべたリケサに、ヒヅキは手を止めて笑みを浮かべてそう返すと、手の動きを再開させる。
ヒヅキが山菜と木の実を主とした様々な料理を食べていると、ふとリケサが話を聞きたそうにしているのに気がついて、首都方面の様子についてリケサに軽く話していく。
その話を静かに聞いていたリケサは、途中で嫌悪するように目を細めて、最後にはため息をついた。
「変わってないようだね。相変わらず愚かしいまでに他種族を見下しているのか」
苛立ちを隠すことなくそう言の葉に乗せると、リケサは手元の料理に目を落とす。
「それに、その首輪の魔法道具。それは牢獄の首輪と言って、元々は犯罪者を逃がさないために付ける物だったんだよ」
そこで目線を上げると、リケサは困ったような笑みを浮かべる。
「それも今のような凶悪な物ではなく、一定距離以上離れたら位置が分かる程度の物で、殺傷能力までは備わっていなかったんだよ」
「そうだったんですか」
「でも、それも時代とともに変化してね。一定距離以上離れたら位置が分かる。から気絶させるが加わり、更には逃げなくとも位置情報をその首輪の持ち主が常時把握出来るようになり、気絶させる魔法も任意でも起動させられるようになってきた。そこまでくれば、囚人以外にも使われ出すのは想像には難くないよね。初めに奴隷に、後に伴侶にも使うような者まで出てきてね。それで使用を禁止する命令が出たんだけれど、それは同族間で、つまりは同じエルフに対してのみ使用禁止という触れでね。奴隷の方は大半が他種族だから、残ったんだよ。そうなると更に変化していって、今の様に持ち主から事前に決められた距離以上離れたら命を奪うようになったんだ。それも苦しめて。そこまで来ると、首輪が使えない同族の奴隷はほぼ居なくなったけれど」
気持ち悪いといった感じで顔を歪めると、リケサは頭を切り替えるように首を振った。
「趣味が悪いよね。勿論、任意でそれを起動させることも可能だから、生殺与奪の権は握られ続けたままだし。そんな凶悪で最低な魔法道具だけれど、周囲のエルフは自分達が行使する側だから、誰も止めようとはしないんだよね」
その周囲とは、主に首都方面のエルフについてなのだろう。リケサは嫌悪感を隠そうともせずにその端正な顔を更に歪める。
「河を間に挟むだけで随分と違いますね」
ヒヅキは感じたことをそのまま口にする。その言葉に、リケサは苦笑するように一瞬笑った。
「こちら側は他種族とも交流が在るからね。といっても、河の向こう側も交流が在るはずなんだがね。それでも改善の兆しは見られないから、一生そうなのだろうさ。今でも変わらないぐらいだし」
「そうですね」
実際に目にして、理解しようとしている様には思えなかったなと思い、ヒヅキは同意の頷きを返す。
「だから、今回のスキア騒動はちょうどよかったのかもしれないね。むしろ遅いぐらいか」
力なく笑うと、リケサは黙って残っていた料理を掻き込んでいく。
それに倣ってヒヅキも残りの料理を平らげていく。量は多いが、二人でも食べきれないというほどの量ではないので、二人はなんとか机に並べられた料理を全て食べきった。
満腹になり、二人は座ったまま満足そうな息を吐いて、少しそのまま食休みを取る。
「ああそういえば、今日はどうするの?」
その食休み中に、リケサが思い出したようにそう問い掛けてきたので、ヒヅキはどうしようかと思案する。もう町並みは見て回ったが、義手はまだ出来ないだろう。なので、少し考えてヒヅキはリケサに答えを返した。