魔法道具52
二人の内一人は、姿形は人族と似てはいるが、全身が鱗のようなモノで覆われていた。その鱗は魚の鱗ではなく、爬虫類を思わせる鈍い輝きをみせている。
もう一人はとても小柄で、人族でいえば7、8歳ぐらいの子どもだろうか。
背中に半透明の小さな羽が生えていて、その羽は光の当たり具合で色が変わるのか、動く度に色を変えていく。しかし、そんな美しい羽も、ボロボロでなんとか面影が残っているぐらいであった。
そのどちらも、性別についてはよく判らない。
爬虫類の様な鱗を持つ方は線が細いが、それは痩せ過ぎなだけだろう。顔は人とは違うので、ヒヅキでは男か女かの判断は出来ない。
もう一人の小柄な方は、見た目は人と似てはいるが、容姿があまりにも中性的過ぎて、少年とも少女とも見えるので、判断に困る。
そんな三人の奴隷仲間にも、首には同じく黒く細い首輪が取り付けられている。
「この三人にもお願いできないだろうか?」
それを確認したヒヅキへと、目の前の獣人が頼む。
獣人の顔へと目を動かしたヒヅキは、明確に面倒だという表情を浮かべたものの、直ぐに目線を外して諦めたようなため息をついた。
(中途半端に投げるのも気持ちが悪いか)
このまま首輪を外さなかった場合、この六人共にこの地で一生を終える事だろう。それもそう遠くなく確実に。そうであれば最初に三人を助けた意味もないかと、ヒヅキは諦める。それに、仲間はこの三人だけだと言っていたのも大きい。
それでも、最初に報酬を貰った以上、何も見返りを求めないで追加を助けるという訳にもいかないので、ヒヅキは目の前の獣人に視線を戻して、言葉を返す。
「報酬は何でしょうか?」
そのヒヅキの言葉に、一瞬獣人はあっとでも言い出しそうな顔をした後に、何かないかと自分の身体に手を這わせた。
「……えっと」
しかし、先程の報酬が全財産であった獣人にとって、他に差し出せるものはなく、困ったように周囲の仲間へと視線を彷徨わせる。
「ああ、じゃあこれでどうでしょうか? 少ないのですが」
その視線を受けて、担いでいた仲間を木に寄りかからせるように置いた獣人の一人が、そう言って腰につけていた小さな袋を取り出し、ヒヅキの方へと差し出した。
それを受け取ったヒヅキは、袋を開けて中身を確認するも、中身は最初の報酬と大差ない額が入っているだけであった。
「確かに受け取りました」
そんな子どものお小遣い程度も入っていない袋を背嚢に仕舞ったヒヅキは、未だに怯えた目をみせる三人に近づいていく。
「では、首輪を外しますので、じっとしていてくださいね」
しゃがみながらのヒヅキの言葉に、怯えていた三人は何を言われたのか分からないという表情を浮かべた。
動きを止めた三人の内の一人、爬虫類を思わせる鱗に身を包んだ相手の首へと、ヒヅキは素早く手を伸ばす。
ヒヅキが首輪に触れたところでそれに気がついた全身鱗のその人物は、驚きと恐怖に身を固める。
それから数十秒程静寂の時間が経過すると、ヒヅキは少し身体の力を抜いて息を吐いた。
「では、首輪の取り外し作業を行いますので、引き続きじっとしていてくださいね」
それだけ告げて、手慣れた様子で首輪を切断していく。そうして首輪を外すと、それを見ていた残りの二人が驚きに目を大きく見開き、自分のも外してくれと近づいてくる。
そんな二人に若干の苦笑を浮かべつつ、ヒヅキは残った二人の首へと一人ずつ手を伸ばして仕掛けを解除していく。
ほどなくして三人全員の首輪を外したヒヅキは、立ち上がって伸びをすると、首輪が外れたことを喜ぶ六人へと、残っていた果実を三つ渡して別れを告げた。
「もう行ってしまうのか?」
そんなヒヅキに、最初に首輪を外した獣人が頼りなげに声を掛ければ、他の五人も頷いてヒヅキの方を見詰めている。
「ええ。皆さんは自力で生き延びてください」
これ以上頼られても困ると思ったヒヅキは、それだけ告げて背を向けて森の中を進む。
首輪を外して食料も渡したのだ、これより先は何処へなりとも行って、自分達で生きていくべきだろう。それに、初めて訪れた森の中を、六人を保護しながら進むのは勘弁願いたかった。




