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魔法道具47

 しばらくそうして視線を彷徨わせていた獣人は、力を抜いて仰向けになると、ボーっと上空を眺めはじめる。

 少しの間その様子を観察していたヒヅキは、背嚢から次の果実を取り出し、そっと獣人の頭の横に置いてみた。

 果実が発する甘い匂いに、意識のある二人は獰猛な鋭い目を果実の方へ向けると、今出せる全力でそれに飛びつき、一心に齧りつく。

 そこまで大きくない果実とはいえ、弱った身体だというのに獣人達は数分で果実を平らげると、再度周囲に目を向ける。流石に果実を2つも食せば多少の余裕が生まれるのか、やっと獣人達はヒヅキの存在に気がついたようで、びくりと肩を震わせて警戒しだした。

 しかし、それはあまりにも弱弱しく、尻を引きずって少し後ろに下がっただけであった。それに、もう一人の気を失っている仲間が気になるようで、ちらちらとそちらに視線を向けている。

 そんな二人に、ヒヅキは軽く両手を上げて敵意が無いことを示すと、背嚢から果実を1つ取り出して差し出す。

「食べますか?」

 ヒヅキの問いに二人を顔を見合わせた後、一人が立ち上がり慎重に近づいてくると、その果実に手を伸ばして奪うように持っていく。

 更にもう1つ果実を取り出すと、残りの一人が先程の獣人と同じように持っていった。

 その果実を食べ終えると、大分落ち着いてきたのか、獣人の一人が戸惑いながらも礼を言ってくる。

 それにヒヅキは軽く頷いて応えると、何故倒れていたのか問う。

「お腹が空いて……」

 そう言ってお腹を押さえた獣人に、ヒヅキは不思議そうに首を傾げた。

「そこら中に食べ物は在りますが?」

 ヒヅキの言葉に、獣人は弱弱しく首を振る。

「我らが許可なく森の恵みを収穫する事は許されていない」

「こんな状況でも、ですか?」

「ああ。もし収穫したのがバレれば殺される。死ぬなら楽な方がいい」

「…………餓死の方が楽、ですか」

「ああ。やつらは自分達以外の命を弄ぶ」

「そうでしたか、貴方方はこの近くの町に住んでいたのですか?」

 ヒヅキの問いに、獣人達は力なく頷いた。

「色々と制約があり不便は在るが、首都以外は住むことが出来る」

「他の場所に引っ越せばよかったのでは? 例えばそこの河を越えた先に在る町でもいい訳ですし」

「これがある限りそれは難しい」

 そう言って、獣人は顔を上げて自分の首元をヒヅキに見せる。そこには黒く細い線が取り付けられていた。

「……首輪、ですか?」

「ああ。町から一定距離まで離れたら、苦しんで死ぬ魔法道具らしい」

「どれぐらいの距離ですか?」

 ヒヅキの問いに、獣人はヒヅキが来た方角を指差す。

「あっちにある河の辺りまでさ」

「なるほど」

 ならば逃げられなかっただろう。技術の無駄遣いだなと、ヒヅキは内心で呆れる。

「それは外せないのですか?」

 外せるのであれば最初からそうしているだろうが、ヒヅキが訊きたいのはそこではない。

「外し方は分からない。魔力をどうこうするという話を聞いたけれど……」

 獣人の話に少し考えたヒヅキは、その首輪を見せてもらえないかと尋ねる。

 その願いにどうしようか迷った獣人であったが、果実をあげたからか、首輪を調べる事の許可が下りた。

 ヒヅキは獣人達を刺激しないようにゆっくりと近づくと、そっとその首輪に触れて確かめていく。

「なるほど。中々に複雑ではありますが、仕組みは単純そうですね」

 その首輪は魔力回路が複雑に絡み合ってはいるが、発動すれば装着者にそれが根を張るというだけであった。ただし、強制的に外から別の魔力を注がれ、魔力の流れを変えられることは多大な苦しみを伴う。しかし、必ず死ぬというものではなかった。

「解るのか!?」

「ええ。辛うじて、ですが」

「…………外すことは出来ないか?」

 獣人の期待の籠った言葉に、ヒヅキは首輪から獣人の方へと目を移す。

「失敗すれば死ぬかもしれませんよ?」

 あまり感情が乗らない声でのヒヅキの言葉は獣人には脅迫に近く、それが事実である事を理解して口を噤む。

 それを受けてヒヅキが首輪から手を離そうとすると。

「……構わない。やってくれ」

 獣人が覚悟を決めた声でそう告げた。

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