魔法道具46
流石に森の中だけに少し歩けば森の実りを見つけられるようで、ヒヅキは森の中を歩いて立ち止まっては、森の実りを少し収穫する。
収穫できる物は何も木の実だけではなく、数種類の果実も収穫できた。
少量ずつとはいえ、それらを収穫しては背嚢に入れていた為に、空きを作ったばかりの背嚢も、もうそろそろ容量が心許ない。しかし、折角収穫したものを捨てるというのも勿体ない気がしたヒヅキは、木の実を口にしながら森の中を散策する。
本来であれば、木の実よりも大きい果実の方を先に食べるべきなのだろうが、気分的に甘い果実よりも苦い木の実を齧っていたかったのだ。
そうして木の実を口の中に入れながら、静寂に包まれている森の中を進む。時折、虫や鳥の声が聞こえてくるも、それはあまりにも小さい。現在は近くには虫や鳥が居ないのかもしれない。
太く大きな木が間隔をあけて林立している森は、狭くはないものの地面が固く、また木の根がそこら中の地面から顔を覗かせて足場を悪くしている。
その中を気をつけながら進むヒヅキの横で、まるで気にした様子もなく滑るように付いてくるウィンディーネ。森に入って少しした辺りで姿を現していた。
二人の間には特に会話もなく、黙々と首都方向へと進んでいる。
普通に歩いて、町と首都で往復一月ほど掛かるが、義手が完成するにはそれでもまだ早いぐらいだ。
首都へは、橋の途中で天を衝かんばかりに聳立している立派な木を目にしていたので、そちらの方角を記憶していて、ひたすらにその方角を目指していた。
そんな道中、静寂が支配している森の中に、何やら呻き声のような低い声が聞こえてきた気がして、ヒヅキは足を止めて耳を澄ませる。
「うぅうぅぅ」
本当に小さく聞こえてきた声に、ヒヅキはそちらへと足を向ける。
そうして近づくにつれ、呻き声は次第に大きくなっていく。しかし、その呻き声は苦しさや痛みからというのとは少々趣が違うような気がした。
「? 何だろう?」
疑問に思い近づいていくヒヅキ。気づけばウィンディーネはその姿を消していた。
木々を避けつつ進むと、声の発信元では、ボロボロの服に身を包んだ三人の獣人が倒れているのを見つける。
「……………………」
うぅぅと低く呻くその獣人達を見下ろしながら、ヒヅキは何故こんな場所に獣人が居るのだろうかと首を捻る。獣人の国はエルフの国から遥か北側に在り、国境を接してもいない。
しかし直ぐにリケサの話を思い出し、もしかしたら何処かの町に暮らしていた獣人かもしれないと思い至る。
「大丈夫ですか?」
とりあえず、わざわざ探してまで見つけておいて無視もどうかと思ったヒヅキは、そう声を掛けた。
「うぅぅ」
しかし、相手は呻くまま。よくよく見れば一人は気を失っているし、三人ともあまりにも線が細い。
「うぅぅ。……腹減った」
そこに、先程から呻いていた一人の獣人がそう口にするが、食料ならばこの森には大量にあるではないか。と、ヒヅキは不思議に思いつつ、丁度背嚢の容量を圧迫していた果実類を幾つか取り出し、三人の前に置いてみた。
「うぅぅ……う、ん?」
先程まで呻いていた獣人達の二人は、目の前に置かれた果実のあまやかな香りに、鼻を引くつかせてゆっくり目を開ける。
「か、果実がこんなところに!」
ぷるぷると小刻みに震える頼りない手を伸ばして、意識のある獣人達はゆっくりと果実を掴むと、それを引きづるように口元まで引き寄せ齧り始めた。
「あ、ああ美味しい。果実とはこんなにも美味しいモノだったのか……」
今にも泣き出しそうな弱弱しい声でそう言いながら、獣人達はヒヅキが置いた果実を、あっという間に食べきってしまった。
その後周囲へと他に食べる物はないかと視線を彷徨わせるも、それはあまりに頼りなく、ヒヅキの方へと目を動かしても、ヒヅキを捉えていない様子で、視線はヒヅキの上を通り過ぎていく。