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魔法道具42

「……………………」

 ヒヅキは水面に浮かんでいる浮きを漫然と眺める。

 リケサに言われた通りに、見様見真似で竿を振り、先端付近に餌と錘の付いた糸を岸辺から離れた場所に投げ入れたまではよかったのだが、そこからは目印となる浮きを眺めるだけで特に何かする事もない。

 しかし、別にそれについて不満はなかった。リケサにも最初にそんな説明を受けていたのだから。ただ、問題は。

「よし! これで三匹目! 今日はよく釣れるな!」

 隣で嬉々として次々と魚を釣り上げているリケサに対して、ヒヅキの竿には何の反応も無い。

「……………………」

 楽しそうなリケサを横目に、ヒヅキはボーっと水面に浮いている浮きを眺め続け、たまに思い出したようにリケサの動きを観察する。

 こうしてただ眺めているだけというのは、ヒヅキにとっては何の苦でもないのだが、魚釣りというものを体験しに来ている以上、一匹ぐらいは釣ってみたかった。

 そんなヒヅキの横では、リケサがまた一匹魚を釣り上げる。久しぶりの魚釣りだからか、その楽しそうな姿はヒヅキの事など頭にないように思えた。

「……………………」

 そんなリケサの姿を一度確認した後、ヒヅキは目を浮きの方へと戻す。すると。

「ん?」

 先程までゆっくりとした川の流れに合わせて上下しながら動いていただけの浮きが、下から突かれたり引っ張られているかのような細かい動きを見せ始める。

 それを眺めながら、ヒヅキはリケサの説明を思い出していく。

「……これは、釣れるのかな?」

 しばらく眺めていると、その浮きが沈む。

 ヒヅキは記憶を頼りに竿を持ち上げると、手元についている釣り糸を巻き取る装置を使って、釣り糸を巻き取っていく。

 竿を持っていかれるような感覚に抗う為に竿を強く握りながら、先程までのリケサの姿を思い出しつつ、竿を上下させてみる。

「このままでは糸が切れそうだな」

 釣り糸を巻き取る手を止めて、糸の先が動く方向とは反対側へと竿を倒す。そうしながら、手に伝わってくる重みが少し軽くなってきたところで、再度釣り糸を巻き上げていく。

 そんなことを少しずつ続け、抵抗が軽くなったところで一気に糸を巻き上げた。

「……おぉ、小さいけどやっと釣れた」

 陸地に上げられ跳ねる魚が付いた糸の先を眺めながら、ヒヅキは僅かな達成感と感動を覚える。しかし、そこに付いている魚は、先程からリケサが釣り上げている魚に比べてかなり小振りであった。食べる分には問題ないだろうが。

 それでも初めて釣り上げた魚なので、ヒヅキは丁寧に魚の口に刺さっている釣り針を取る。

「おめでとう」

 そこにリケサが手を叩きながら祝福してきたので、そちらに顔を向けたヒヅキは、釣り上げた魚をみせながら問い掛けた。

「これはどうすれば?」

 その魚を見たリケサは、一瞬考える仕草を見せる。

「そうだね、折角初めて釣り上げた魚だけれど、小さいから逃がしてあげたらどう? まだ元気そうだし」

 リケサのその言葉にヒヅキは頷くと、魚を掴んでいる手を水の中に入れて、そっと放した。そうすると、魚は直ぐに水中を泳いで岸辺から離れていく。

「あれだけ元気なら大丈夫だろう」

 そう言って見送ったリケサの横で、ヒヅキは釣り針に餌を付けていく。一度習いながらやったとはいえ、一人でやるのは初めてなので少し手こずった。

 それでもしっかり餌を取り付けることが出来たヒヅキは、リケサが自分の所定の位置に戻ったのを確認してから、周囲に気をつけて河へと餌を投げ入れる。

 それからはまた、水面に浮かぶ浮きを眺める時間。

 途中でリケサが持ってきた昼食を食べたりしたものの、結局、ヒヅキは逃がした魚以外を釣る事はなかった。

 そんなヒヅキとは対照的に、リケサは十匹ほどの釣果にホクホク顔ではあったが、ヒヅキの釣果を思い出して、僅かに申し訳なさそうな顔も浮かべていた。

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