魔法道具41
「他には舟で渡る方法があるけれど、今は渡し守も居なければ、舟も小屋に仕舞われているからね」
「そうでしたか」
「まぁ、泳いでもいけなくはないけれど、お勧めはしないね。肉食魚も居るから」
「肉食魚ですか?」
「僕達も餌になるってことさ」
「なるほど」
「だから、首都に向かいたいのであれば、離れたところに在る橋を渡るか、舟を探すかしかないかな」
「そうでしたか」
「でも、首都は行っても無駄だと思うけれど? というか、ヒヅキの身が危ないし」
「ああ、ただの興味です。それに、もしも行ったとしても、首都の大木を遠目に眺めるぐらいですよ」
「それならいいけれど……」
安堵しながらも僅かに不安げなリケサに、ヒヅキは問題ないと笑みを返す。
「それと、魚釣りとやらもどんなものか少し興味があるのですが」
そのヒヅキの言葉に、急にリケサの眼光が鋭く光ったように思えた。
「おぉ! じゃあ、早速明日行こうじゃないか!」
「え? えぇ。宿屋の方はいいのですか?」
「いいの、いいの! どうせお客なんてヒヅキしか居ないんだから。新しく誰か来るとも思えないし!」
わざわざ残ってまで宿屋を守っているというのに、それでいいのだろうかと思うヒヅキであったが、現状ではそんなものなのだろうと思い直す。
「ヒヅキは釣り未経験だったよね!?」
「え、ええ。そうです」
「そっか! そっか、そっか。なら、簡単なやつからがいいよね! やっぱり最初は釣れなきゃつまらないだろうしさ!」
活き活きとしながら語るリケサの様子に、ヒヅキはちょっと話の振り方を間違えたなと内心で後悔するも、口にした言葉は引っ込められない。
それからも実に楽しそうに語るリケサに付き合うと、普段よりも若干精神的に疲れた夕食が終わる。
自室に戻ったヒヅキは、ベッドに倒れるように横になると、そのまま眠りについた。
翌朝はまだ日も昇らない時間にリケサが起こしに来る。どうやら朝食を早めに終わらせて河に向かうらしい。
ヒヅキは暗い中食堂に移動すると、魔法の光が照らす食堂内で朝食を摂る。
「ああそうだ、今日は昼食も用意しといたからね! 釣りをしながら食べよう」
やたらと元気なリケサに、ヒヅキは僅かに苦笑い混じりの笑みを返すと、朝食を食べ終えた。
リケサは使った食器を片づけると、釣り道具を持ってヒヅキと共に宿屋を出る。
宿屋に鍵を掛けると、二人は河へと向かって移動を始めた。
「荷物は持たなくていいのですか?」
背嚢を持ってきてはいるが、背負っているのでヒヅキは空いている右手をリケサへと差し出す。
「いいよ、いいよ。釣り道具を運ぶのも楽しいからさ!」
今すぐにでも鼻歌を歌いそうなぐらいに機嫌がいいリケサは、そう言ってその申し出を断る。
「そうですか」
それにヒヅキは手を引っ込めると、前を向いて歩いていく。
「しかし、釣りはいいけれど、スキアの方は大丈夫かな?」
もうすぐ町を出るというところで、リケサが不安そうに口にする。
「大丈夫だと思いますよ」
「そうかな?」
「ええ。この周辺にはスキアが居ないようなので」
「そうなの? ヒヅキはスキアが周辺に居るかどうか判るの?」
「何となくですが」
「そう。なら、まぁ大丈夫かな?」
「ええ」
「久しぶりの釣りだから楽しみだな!」
再び声を弾ませるリケサと共に、ヒヅキは町を出て河へと向かった。
町から河へはそこまで離れていないので、薄暗い内に宿屋を出て、日が昇り始めた頃には河へと到着出来た。二人は岸辺から離れた場所に荷物を置くと、リケサは早速機嫌よく準備に取り掛かる。
ヒヅキは何をすればいいのかも分からなかったので、その様子を眺めて待つ。しばらくして準備が整うと、リケサから竿を受け取り、ヒヅキは使い方を教えてもらう。
一通り使い方を学ぶと、リケサが先に使い方の手本をみせてくれたので、それに倣ってヒヅキも釣りを始めてみた。