ソレイユラルム
「貴方がヒヅキ君ですね」
ヒヅキが独り頭を抱えていると、一人の男性が声を掛けてくる。
その声にヒヅキは顔を上げると、そこにはしっかりした服装に身を包んだ清潔感のある男性が立っていた。
まるで青年のような若々しい見た目からは判りづらいがおそらく中年の、それも老境に入りかけているであろうその男性は、顔を上げたヒヅキに、相手に必ず好感を抱かせるだろうと思わせる爽やかな笑顔とともに自己紹介をする。
「はじめまして。私はギルド“ソレイユラルム”のギルドマスターのユルドという者です。本日は当ギルドまでご足労頂き感謝致します」
そう言うと、ユルドは優雅に一礼する。それがあまりにも様になり過ぎていて、ヒヅキは一瞬、まるで劇の観客にでもなったかのような錯覚を覚える。
しかし、ユルドが顔を上げるころにはヒヅキは我に返ると、失礼にならないよう間に気をつけて挨拶を返す。
「はじめまして、私はここから南下したエルフとの国境近くにあるカイルという村のヒヅキといいます。この度はご招待……して頂き有り難うございます」
途中僅かに詰まってしまったのは聞き流して欲しかったのだが、ユルドはそれで何かを察したのか、頭だけを動かすと、視線を後方の男たちに向けてからヒヅキの方に戻す。
「申し訳ありません。どうやらウチの団員が強引に連れてきてしまったようで……」
ユルドは申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いえ、大丈夫ですから」
ユルドのような大人に突然頭を下げられて驚いたヒヅキは、それと同時に連れてこられた時のことを思い出してしまい、少々舌の動きが鈍くなってしまう。
幸いユルドはそこに気を留めることなく頭を上げると。
「そうですか?すいません、有り難うございます」
そうヒヅキの気遣いに感謝の言葉を述べると、親しみの籠った笑みを浮かべた。
「さて、まずは用件を済ませましょう。今回ヒヅキ君にわざわざ来てもらったのは報酬をお渡しするためです」
「報酬?」
ヒヅキは不思議そうに首を傾げる。報酬を貰えるようなことをした覚えが全くなかったからだ。
「はい。この前の小鬼討伐の際にウチの団員を助けていただいたとか」
「え?あ、ああ……」
ヒヅキはソヴァルシオンに訪れた初日のことを思い出し、どう返したらいいかと言葉に詰まる。
正直あまり目立ちたくはなかった。
「これはその報酬の金貨です」
ユルドはヒヅキに金貨の入った袋を差し出す。
それをヒヅキは反射的に受け取ると、ずっしりとした重みが腕に伝わる。
「これはさすがに貰いすぎでは?」
袋を開けずとも、ユルドの言葉通り中身が全て金貨ならば、こんな重みを感じられる量はさすがに受け取れなかった。
「いや、そんなことはないさ。おかげで大事な団員を失わずに済んだ訳だからね。そしてなにより今回の依頼は報酬の額が多くてね、申し訳ないとは思うが、それでも分け前としては少ない方なんだよ?」
冗談めかしてそんなことを言うユルドだったが、その雰囲気には受け取った報酬の返却を許さないという感じがした。もしかしたら勘違いだったかも知れないが。
ヒヅキが渋々報酬を受け取ると、ユルドは満足げに頷いた。
そこで突然入り口の扉が開くと、利発そうな雰囲気を持った一人の女性が入ってくる。その手元には一枚の丸められた紙が握られていた。