魔法道具37
『そういう訳で、その影響を受けているからのその感情だと思うよ』
(そう、なのですか)
『まぁその辺りも、抑えつけられている今なら、多少はどうにか出来そうだが』
(では、お願いできませんか?)
『それぐらいなら構わないよ』
(ありがとうございます)
ヒヅキは闇の中で頭を下げるも、相手が何処に居るかも分からないので、ちゃんと礼が出来たのかは不明だ。
それが済んだ後に、ヒヅキは最も訊きたかったことを尋ねる。
(お尋ねしたいのですが、前に借り受けた魔砲を含め、この光の魔法とは一体何なのですか?)
『光の魔法、ね』
ヒヅキの問いに、声の主はどこか呆れたように素っ気なく呟いた。
(光の魔法ではないのですか?)
『いや、間違ってはいないよ。光の魔法・奇跡の御業・救世の輝き・顕現の光・払暁の導き手などなどと、その魔法と担い手は様々に呼ばれていたから、光の魔法も正しいね。正式には違った気がするが』
(そんなに担い手が居たのですか?)
今までも担い手の数は少なかったと聞いていたヒヅキは、驚いた声音でそう尋ねる。
『時代の転換期に現れる存在だからね…………はて、僕は何故こんな記憶が?』
話の途中で首を傾けたような声音を出した声の主に、ヒヅキは重ねて問い掛ける。
(では、今がその時代の転換期、というやつなのですか?)
『まぁそうだね。どんな時代になるかは不明だが、少なくとも様々な国が存亡の瀬戸際に立たされているのだから、転換期と言えるんじゃないかな?』
(それもそうですね)
『まぁだからといって、世界中の存在が急に強くなるわけでもないから、このままではかなり滅びるだろうね。担い手の手は遠くまで届くとはいえ、それでも限りがある』
(長いかどうかは分かりませんが、全ては確実に無理ですね。一国ですら満足に護れなかったというのに)
ヒヅキには元より国を護ろうという考えは無かったが、それでもその言は事実であった。一国の首都でしかないガーデンでさえ、護るのには一苦労させられた。それこそ、この声の主が手を貸さなければ、確実に命を落としていたのは疑いようもない。
『それは確かに。こちらとしても君に死なれては困るからね、死なないように配慮はしているよ。まぁ、僕はどちらでもよかったが』
(どちらでも?)
『君が生きようと死のうと、僕には関係のない話だ。ということさ。僕はそこまで存在する事に固執していないからね。それでも、他の者達が小さな世界で生を渇望し、謳歌したいのを知っている。だからこそ、他の存在が慌ただしかった。こちらもまた、僕には興味の無い話だが』
(なるほど。それであのような事態になったのですね)
『色々と暴走をね。とりあえず、最近の変化はこちらで抑えよう。睡眠もとれるようにする。それでも、確実ではないのは忘れないでほしい』
(心に刻みます。ありがとうございます)
『家賃代わりに力は貸すが、それも可能な限り抑えるように努力してくれれば、こちらとしてもやりやすいな』
(分かりました)
『ああ、ならばいい。では、そろそろ起きた方がいいかもしれないな。そう経たずに朝になるだろうから』
(もうそんな時刻でしたか)
『集中すれば早いものだよ。それに、君はこれで1つ上に登った。しかし、それでもまだまだ足りないがね』
(上、ですか?)
『まぁ、また話す機会を作ろう。そう遠くないうちにその機会は訪れるだろうから』
(分かりました)
『ではまた』
声の主がそう言うと、ヒヅキの意識は遠のき、暗転する。
次に目覚めた時には、宿屋で借りた一室のベッドの上であった。どうやらあの後すっかり眠っていたようで、採光用の窓から僅かな光が確認出来た。
「おはよう。よく寝てたわね」
姿が見えないその声を聞いても、寝る前のような苛立ちを覚えない。
「おはようございます」
挨拶を返しつつ身を起こすと、ヒヅキはどことなく清々しい気分になり、伸びをした。そこに、リケサが朝食の準備が出来たことを告げる為に扉を叩く音が室内に響いた。