魔法道具33
食堂に入ったヒヅキは、机に朝食を並べ終えて先に席に着いているリケサの向かいに腰を下ろす。
「おはよう」
「おはようございます」
まずは挨拶を交わした二人は、食前の祈りを捧げて朝食を食べ始める。
「大丈夫?」
朝食を食べ始めて直ぐに、リケサが心配そうにヒヅキに問い掛けてきた。
「何がでしょうか?」
それに手を止めて首を傾げたヒヅキを、リケサは少し観察して口を開く。
「いや、何か体調が悪そうに見えたからさ。大丈夫かな? と思ってさ」
リケサの指摘に内心で僅かに驚きつつも、ヒヅキは安心させるような笑みを顔に張り付ける。
「ご心配ありがとうございます。ですが、大丈夫です。そう見えたのは、昨晩少々寝つきが悪かったからかもしれません」
「そう? ならいいんだけれど」
ヒヅキの返答に、リケサは一瞬考えるような素振りをみせたものの、直ぐに朝食に戻る。それを確認したヒヅキも朝食を再開した。
「今日も町の散策に?」
また少し朝食を食べ進めると、リケサはヒヅキにいつもの問いを行う。
「はい。まだ町全体を回れていないので」
「そうか。でも、誰も居ないから寂しいでしょう?」
「そうですね……昔ほど賑やかではないようですが、その分静かなので、私としましては、その方が性には合っていますね。それに、全く誰も居ない訳でもありませんから」
「まぁ、そうだけど。ヒヅキがいいなら、まぁいいか。僕としては、賑やかな方がいいけどね。商売にならないし」
冗談めかして肩を竦めたリケサだったが、その表情は冗談ではないのが判るほど困ったような笑みであった。
「ああ、そうだ。家にあった本は夜にでもここに置いておくよ。他の人には今日訊いておくから」
「ありがとうございます」
「気に入ったら部屋で読んでもいいから。流石にあげられないけれど、ここの宿泊中の間は貸すぐらいはするからさ」
リケサの申し出に、ヒヅキは感謝を込めて軽く頭を下げる。
「それにしても本、か……やっぱりヒヅキは教養あるよね」
「そうですか? まぁ、読み書き計算は習いましたが」
「商人の手伝いしていたからね。それでも、こうやって不自由なく僕達の言葉を操り、読む事も出来るんだから、凄いよ。書く事も出来るの?」
「ええ。そちらはまだ完ぺきではありませんが」
「それで十分さ。僕はこうやって商売しているから、必要に駆られて読み書き計算が出来るようになったけれど、他国の言語までは全然だね。。首都にでも行けば話は変わってくるようだけれど」
粗方朝食を食べ終えたリケサは、一息ついて残りを一気に食べた。
「首都では読み書き計算が出来るのが普通なのですか?」
ヒヅキも同じぐらいに朝食を食べ終えると、リケサにそう問い掛ける。
「実際に行ったわけではないけれど、聞いた話じゃ、子どもの頃から読み書きを教えているとか。ついでに計算も簡単なモノを教えているらしいよ。まぁ、他国の言語までは分からないけれど」
「そうなんですか」
「流石は選民意識が高いだけあるよね。それだけしても、首都から出るエルフは少ないようだし」
呆れたような馬鹿にするような口調でそう言うと、リケサは小さく笑う。
「首都にはそれほど色々揃っているのですか?」
「まぁ、それなりに。交易品もエルフの商人が持ち込んでいるみたいだし」
「そうなんですね」
「どれだけ気位が高くとも、首都だけでは全てを賄えないからさ」
「食料もですか?」
「森の恵みを得るにも限りが在るから。首都に居る住民の数は多いからね、それを賄うには広範囲から集めないといけなくなるんだよ」
「なるほど」
「それなのに、商売人はエルフでないと駄目みたいだね。誰が作ったよりも誰が売ったかを重視しているというね」
そう言って肩を竦めたリケサは、立ち上がり食べ終えた二人分の食器を片付け始める。
食器を片し始めたリケサへと、ヒヅキは感謝の言葉と共に食事の感想を伝えると、ヒヅキも席を立って食堂を後にした。




