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後悔先に立たず

「はぁ」

 ヒヅキはついついため息をついてしまい慌てて辺りを確認するも、幸い誰にも聞かれずに済んだようで、ヒヅキはそっと胸を撫で下ろした。

(どうしてこうなった………)

 ヒヅキは頭痛を堪えるように片手で頭を押さえると、つい先ほどの出来事を思い出していた。



 店先で見つけたよく分からない人の形を模したモノに興味を惹かれたヒヅキは、雑貨屋でそれを購入して店を出ると、そのまま他の店を冷やかしながら大通りを歩いていた。そんなヒヅキの耳に、「見つけた」という少女のような可愛らしいながらも抑揚の少ない声が届く。

「ん?」

 その声に聞き覚えがある気がしたヒヅキは、思い出そうと一度空を見上げてから顔を声が聞こえた方へと向ける。そこには。

「ルリちゃ……さん?」

 少女のような容姿のその女性に、ヒヅキはついちゃん付けしそうになり、慌ててそれを言い直した。

 顔を向けた先ではルリが何を考えているか分からない無表情のままこちらを指差していた。その後ろには見知らぬ屈強そうな男たちが三人立っていた。

(何だか犯罪の臭いがしなくもない絵面だな………)

 ヒヅキがそんなどうでもいいことを考えていると、男たちはルリの指差す先、つまりはヒヅキを囲むように動き出す。

 それに気づいたヒヅキはすぐに逃げようかと思ったが、それは一応知り合いであるルリに失礼かと思い直すも、ではどうしようかと頭を回転させる。

 この選択をヒヅキは後々まで悔いることになる。まさに後に悔いるで後悔という字の如く。

「……………」

 男二人がヒヅキの左右に、もう一人が後ろに回るように動くのを視線で確認しつつ考えるも、これといった名案は浮かばず、素直にルリに問いかけた。

「えっと、何の用?……でしょうか?」

 どうも少女に語りかけるような口調になってしまう自分に内心で苦笑しつつ、ヒヅキはルリの返答を待った。

「………」

「ウチのギルドに招待しようと思ってね」

 その問いの答えはルリからではなく、右側から返ってくる。肩に回された手とともに、耳元近くに。

「そ、そうなんですか」

 ヒヅキの問いに答えた男の奇妙な雰囲気とあまりの近さに、ヒヅキは顔をひきつらせる。

 人は相手との親密度によって距離感を大切にする生き物だが、それを全く気にかけない眼前の男にヒヅキは瞠目すると同時に、笑みを何とか保った自分を褒めてあげたかった。

「では行こうか」

 更に反対側から耳元に声が届き、それとともに今度は腰に手が回される。

 正直泣きたかったが、ヒヅキは何とか笑みだけは崩さないように心掛ける。そうしないと心の平静を保てそうになかったから。

 そのままヒヅキはギルド“ソレイユラルム”の本拠であるギルドハウスに連行された。

 その様子を、ルリは助けることなく無表情のままずっと眺めていた。しかし、ヒヅキにはその瞳に僅かにだが同情の色があったように感じられた。



 ソレイユラルムのギルドハウスでヒヅキは自分の身体を守るように両手を動かす。直ぐに忘れるには、心に負った傷があまりにも深かった。

 それに、ここまでヒヅキを連れてきた男たちが視界内に居るのも精神衛生上よろしくなかった。

(………世界はあまりにも広すぎる!)

 ヒヅキは世界の広さに改めて驚き、そして彼にしては珍しく怯えたのだった。

 世界にはまだまだヒヅキが知りたくもない未知が広がっているようであった。

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