魔法道具27
(それにしても、ウィンディーネと対等に話せるということは、グノムという神はウィンディーネと同等以上の強さということか?)
竜神とウィンディーネのやりとりを思い出したヒヅキは、そんな事を思う。神の格についてはよく分からないが、少なくとも実力が物を言う世界であるのは確かなようだったから。
(ただ、実力よりも格の方が優先されそうな言い方だったから、格は同じなのか?)
それでも、実力がウィンディーネと同等以上というのは、もはや苦笑さえ浮かばない。
「まぁいいわ。今回は貴方をヒヅキに見せたかっただけだから」
「ふ。そなたも大変よな。人間」
「え?」
「其処な者は我と同じの四が一。気ままに世界を弄ぶ事が許されている存在で、我らの中で特にそれを好む傾向があるからな」
「四が一、ですか?」
「気にする必要は無いわ。だって、私はそんなものではないのだから」
「そうなのですか?」
「君はまだそんな事を言っているのか」
「事実ですもの」
呆れたように肩を竦めるウィンディーネに、グノムは大木を揺らす。おそらく笑っているのだろう。
「まぁ、好きにするといい。いつまでもそのままではいられないだろうからな」
「何について言っているのやら」
「君は本当に変わらない。それとも、変われないのかな?」
「ふふ。そんな事はないわよ」
愉快そうに笑ったウィンディーネは、ヒヅキの方へ目を向ける。
「どうかしら、ヒヅキ? お目当ての姿ではなかったけれど」
「大変貴重な経験をありがとうございます」
「そう? まぁそうね」
ウィンディーネはヒヅキからグノムの方へと目線を移す。
「ほら、ヒヅキに見せたいから、いつもの姿に戻ってくれないかしら?」
「その義理はないが、君は余程そこの人間が気に入っているのだな」
「ふふ。ええ。そうね」
「そうか。だが、私はこの姿が気に入っているのだ。静かに過ごさせてはくれないか?」
「そう。なら、ちょっと姿だけいつものに戻ってくれないかしら?」
「断る。君に指図される覚えはないのでね」
「あら、そう。それは残念ね」
軽い調子でそう言うと、ウィンディーネは周囲に目線を動かす。
「まぁいいわ。それで、貴方はエルフを護らないの?」
「スキアか。あれぐらい自力で対処してほしいものだがな」
「無理だから、今の現状になっているのでしょう?」
「そうだな。だが、今回は何もしないさ。それは君も理解していよう?」
「そう。それならばもう貴方に用は無いわ」
手をひらひらと振ると、ウィンディーネはグノムに背を向ける。
「さ、戻りましょうか」
「え、ええ。そうですね」
ヒヅキはグノムを気にしつつも、ウィンディーネの後について行く。
「人間よ」
そんなヒヅキの背に、グノムが声を掛ける。
「何でしょうか?」
それに振り返ると、グノムは根を地面に戻している最中であった。
「その者には気を許さぬように」
「……御高配感謝致します」
ヒヅキは一礼すると、小さく笑う。
「ですが、それは元より承知しております」
「そうか。要らぬ事であったな」
グノムの呟きに、ヒヅキは小さく首を振ると、何も言わずにお辞儀をして背を向ける。
「ふふ。いいのよ? ヒヅキなら信用しても」
「多少は信用していますよ。多少は」
「そう。まぁそれで充分かしらね」
ヒヅキの返答にウィンディーネは楽しげに答えると、意味深に笑う。しかし、それはいつもの事なので、ヒヅキに気にした様子は見られない。
「それで、四が一とは何のことなんです?」
「存在しないわよ。そんなもの」
「では、どんな話だったので?」
「前に話した神の眷属の呼び名の1つよ」
「……四ではなく三だったのでは?」
「ええ。だから存在しないのよ」
「なるほど。つまり、ウィンディーネも入れて四と?」
「ふふ。私はそんな大層な存在じゃないわよ」
ヒヅキのその言葉に、ウィンディーネはいつもの笑みを浮かべながらそう答えると、ヒヅキの方へと流すような視線を送るのだった。