魔法道具23
ヒヅキがエルフの国に来て一月と少しが経った頃。ヒヅキを連れてきた叔父の手伝いも粗方終わり、ヒヅキは町の様子を見て回る事にする。
滞在している町は中心地に近いほど治安が良く、外に行くと次第に治安が悪くなっていくが、それでも当時から既に身体強化を会得していたヒヅキにとっては、一般的なエルフぐらいでは相手にもならなかった。
それでも、最初は中心地付近の商店が立ち並ぶ賑やかな通りを回っていたのだが、それを連日回った事で疲れてきたヒヅキは、比較的静かな外の方へと足を向けた。
中心地から離れる度に家の数が減り、喧騒も小さくなっていくが、それでも様々な種族の姿を目に出来る。
外側に行くほど治安が悪いと言われてはいるが、まだそれを実感できる程ではない。
そのまま気の向くままに道を外れて町の終わりまで移動したところで、その少女を見つけた。
(ああ、そうだった)
そこまで思い出したヒヅキは、何故フォルトゥナに興味を抱いたのかを思い出す。
(あの頃のフォルトゥナは、昔の俺を見ている様だったんだ)
全てを失い世界に絶望した頃の姿に、座って遠くを眺めているフォルトゥナはどこか似ていた。
だからこそヒヅキは興味を持ち、フォルトゥナの傍に寄った。別に助けようと思った訳ではなく、何を見ているのか気になった為に。
(しかし、そこからは興味をそそられるモノは何もみえなかった。結局どこからみても、この世界は同じで色が無いのだから)
朝晩は主に叔父の書類仕事の手伝いを行い、約1年フォルトゥナの元に通い詰めたヒヅキだが。
(違うな。気配察知が行えるようになったのはここではない。いや、少し思い出してきた)
少し記憶を掘り起こした事で、連鎖的にその付近の記憶が呼び覚まされる。
(気配察知が出来るようになったのはもっと前だ。あれは確か……)
記憶を辿っていった先にあったのは、ヒヅキが保護されて間もなくの頃。その頃にヒヅキは気配察知が行えるようになっていた。
(…………あれ? どうしてだっけ? いや、その前に、あの頃の俺は何をみていた?)
そこまで辿り着いたところで、記憶に乱れを感じる。それは思い出そうとすればするほど強くなっていく。
(なん、だ、これは? 何かが記憶に干渉している?)
それからも思い出そうと試みるも、エルフの国に行った辺りからの前の記憶に雑音のような乱れがあり、まるで記憶に靄でもかかっているかのように、ほとんど思い出せない。
(これだけ思い出そうとしても無理、か。何かの拍子で思い出すことに期待するしかないな)
次第に頭痛がしてきたような気になってきだしたヒヅキは、記憶を探る作業を切り上げることにする。元々の目的であった気配察知を修得した時期については、大まかながらも判明したので問題ないだろう。
そう思い目を開けると既に朝になっていたようで、採光用の窓から射し込む日の光が天井を淡く照らしていた。
それを確認したヒヅキはゆっくりと上体を起こすと、ベッドから降りて背嚢の中から水瓶と容器を取り出す。
取り出した水瓶から容器に水を注ぐと、水瓶を背嚢の中に仕舞う。
「………………はぁ」
容器に注いだ水を飲み干したヒヅキは、空の容器を背嚢の横に置いた。
「さて、今日は不用品の処分と町の探索の続きかな」
今日の予定を口に出して確認したヒヅキは、そろそろ時間だろうかと思い、部屋を出て食堂へと移動する。
「ああ、早かったね。今から持ってくるからちょっと待ってて」
ヒヅキが食堂に入ると、机を拭いていたリケサがそう言って奥の調理場に消えていく。
それを見送ったヒヅキは、いつもの席に腰掛けリケサが戻ってくるのを待つ。
程なくして料理を持ったリケサが戻ってきたが、盆に載せた何枚もの皿を机に並べると、次を取りに戻っていく。それを何度か繰り返すと、机の上を料理の載った皿が占拠する。
そうして料理が出揃ったようで、リケサはヒヅキの前に腰を落ち着けた。