魔法道具21
部屋に戻ると、ヒヅキは部屋の明かりを点けて、出しっぱなしだった荷物の整理を再開させる。
「しかし、本当に不思議なものだ」
ヒヅキはベッドの上に出している荷物を背嚢へと仕舞いながら、その量と背嚢の大きさを見比べて、感心した声を上げた。
「不用品の処分は、明日鍛冶屋にでも持ち込んでみるかな」
ヒヅキが義手を依頼している鍛冶屋は、武器や防具が主力商品ではあるが、雑貨類なども少しは取り扱っていた。
荷物の整理しながら、必要な物を片手で器用に背嚢に仕舞ったヒヅキは、取り出しやすいように不用品を最後に背嚢へと仕舞う。
「ふぅ。義手代として硬貨を結構消費したとはいえ、容量はそこまで残っていなかったな。危ない危ない」
背嚢を閉じると、それを面倒そうに荷物入れの上に置く。
「はぁ。そろそろ寝ようかな」
伸びをしたヒヅキは、明かりを消しに移動して、その後ベッドの上で横になった。
「……………………」
採光用の窓から月明かりが微かに入ってくる部屋の天井を眺めながら、ヒヅキはぼんやりと考える。
(義手が出来るまで数ヵ月。町の様子はある程度目にしたし、河まで行った。途中スキアに出会ったが、この町周辺はスキアの数が少ないようだ)
ヒヅキはもう少し町の様子を見て回る予定ではあるが、それでも数ヵ月は流石にやることがなかった。
(フォルトゥナは何処に居るのか分からないしな。首都へは人間は入れないらしいし、何より現在首都はスキアの襲撃を頻繁に受けているらしいから、そんなところへは行きたくないな……いや、そもそもフォルトゥナが生きていたとしてもだ、町に滞在しているとは限らないのか)
元々フォルトゥナは迫害されていた少女だった為に、町には住みずらいし住みたくはないだろうと考えたヒヅキは、では何処に居るのか考えようとするも、国を出ていなければ、森の中以外には考えられない。そして、ヒヅキはエルフの国に拡がる森の中では確実に迷子になると断言できた。
(情けない話だ。前にウィンディーネが言っていた、周辺察知を鍛えて地形の把握が出来るように訓練してみようかな? 幸い時間だけはたっぷりある事だし)
町への滞在期間中にやる事が出来たヒヅキは、早速とばかりに横になりながら周辺地形を把握できないかと集中してみる。
(…………いや、そもそもどうやって地形なんて判るようになるんだ?)
現在のヒヅキ気配察知は、感覚的に言えば平面に何かしらの生体反応を捉え、その反応の方向と距離、それが何かを記憶から類似性の高いものを探って何となく判っているに過ぎない。
そんな曖昧な感覚から、反応以外の地形を認識出来るようにする方法がヒヅキには思いつかない。木々などの植物は反応が鈍いが、捉えることが不可能ではないので、そこから地形を把握できたとしても、それが効果があるのは森の中だけだ。
(森の中だけでも十分か? それなら木々の方に集中して把握できるように努めれば何とか……なるのか?)
物は試しと実行してみるが、大量の反応を捉えただけで、道などは辛うじて判る部分が僅かにある程度でしかなかった。そもそも、平面的な感覚に大量の反応を捉えた事により逆に視界が埋もれてしまい、視界が悪くなってしまっている。
(もっと立体的に捉えることが出来れば、分かるようになりそうだが…………むむむ)
ヒヅキはどうにかして、平面的な感覚を立体的なモノに出来ないかと試すも、全く進展しない。
(根本的にやり方が違うのか?)
それから思いつく限りの事を試していくも、一向に進展は見られない。
(くっ! こうなったらしょうがない)
何も手がかりを見出せなかったヒヅキは、背に腹は代えられないと、ウィンディーネに訊いてみる事にした。
「ウィンディーネ。訊きたい事があるのですが?」
「あら? なにかしら?」
呼びかけて直ぐさま返事が得られたことで、ヒヅキは先ほどから試している事を説明していく。それを一通り説明し終えたところで。
「また随分と無駄な事をしているのね」
そう、呆れ声でウィンディーネに断じられた。




