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魔法道具20

 それから程なくして、日が沈む前にヒヅキは町に到着する。その頃にはウィンディーネも姿を消していた。

 少し切り開かれているとはいえ、森と然して変わらない町を歩き、目的の宿屋に帰ってくる。その頃には辺りは暗くなっていたが、宿屋には軒先に淡い明かりが灯され、ヒヅキの帰りを出迎える。

 宿屋に入ると、ヒヅキはそのまま自室に向かう。部屋に入ると明かりを灯して背嚢を降ろし、ベッドの上に中身を取り出していく。

「着替えや雨具などの旅路に必要な物以外もかなり増えたな」

 ヒヅキは背嚢から中身を取り出していくと、その量や種類に驚いた声を出した。

「整理するにしても、少し量を減らさないとな……ふむ。水筒はもうほとんど処分しようかな?」

 遺跡で手に入れた水瓶は、一日の使用量が決まっているとはいえ、手持ちの水筒全てに補充してもまだ使えるほどに大量の水が出てくる。なので、山のようにある水筒は数を減らしても問題ないだろう。

「次はこの小箱か……うーん、売れないかな?」

 遺跡で水晶の欠片のような物の入っていた小箱だが、数が多いのでかなり嵩張っていた。しかし、作りが良くしっかりとしているので、高額でなくともそこそこ良い値で売れそうではあった。

「縄ももっと長いのに変えるべきか……」

 竜神の住処での事を思い出し、そう考えるも、今以上に長い縄を用意するということは、その分容量が増えるという事になる。

「この仮面も目の部分以外要らないしな。そろそろ食料も補充した方がいいか?」

 背嚢の中身を整理しながら、あれやこれやと思案していると、部屋の扉が叩かれ顔を上げる。

「はい」

「夕食の準備が出来たけど、どうする?」

「あ、今から行きます」

「じゃあ食堂で待ってるね」

「はい」

 呼びに来てくれたリケサに返事をしてベッドから降りると、荷物はそのままに、明かりを消して部屋を出ていく。昨日よりも少し時間が遅いのは、ヒヅキが出て来るのを待っていたからかもしれない。

 部屋に鍵して食堂に入ると、いい匂いが漂っていた。机には食事が載った盆が置かれ、リケサが今朝と同じ席に座っていた。

 ヒヅキがリケサの向かいの席に腰掛けると、二人は食前の祈りを捧げて夕食に手をつける。

 リケサが作る食事はどれも優しい味をしているが、だからといって物足りない訳ではなく、落ち着いて食事が出来る。勿論、味は美味しい。それでいて、夕食の方は朝食よりも味が濃く作られていた。

 今回は会話もあまりなく、淡々と食事は進む。

「それで、河はどうだった?」

 食事ももう終わるというところで、リケサが話し掛けてくる。

「広い河でした。それに水が綺麗でした」

 そのヒヅキの答えに、リケサは嬉しそうな表情を浮かべる。エルフにとって自然、特に森と河は誇りであった。

「あそこには魚も棲んでいるからな! いつか魚釣りにも挑戦してほしいものだ」

「それは楽しそうですね」

 リケサの話に、ヒヅキは頷く。ヒヅキの住んでいたカイル村では、近くに河が流れていない為に魚は珍しい食材で、ヒヅキは魚釣りというものを今まで一度として経験したことがなかった。

「楽しいぞ! 必ず釣れる訳ではないが、釣れた時の達成感といったら!」

 熱く語りだしたリケサに、ヒヅキはどうしようかと思いつつ、とりあえず食事を食べ終える。

 食事を食べ終えると、ヒヅキはリケサの話の切れ目を探しながら、適当に頷き流しつつ聞いていく。

 そして、息継ぎの為にリケサが言葉を切った僅かな間に、ヒヅキは言葉を差し込む。

「それはとても魅力的ですね。ああ、今日も食事はとても美味しかったです。料理が得意なんですね」

「まぁ、ずっと料理していたからね。これでも母さんの料理には負けるけれど」

「そういえば、昔食べた食事も非常に美味しいものでしたね」

「うん。今は首都の方に避難しているけれど、機会があればいつかまた寄ってよ」

「はい」

 どことなく空虚な笑みを浮かべたリケサに、ヒヅキは頷くと席を立つ。

「それでは、私は部屋に戻りますね」

「ああ、お湯は要るかい? 流石に昨日今日とお風呂は沸かせないけれど」

「うーん……そうですね、今日はもう休もうと思います」

「そっか。分かった。おやすみ」

「おやすみなさい。では」

 そう言うと、ヒヅキは食堂を後にした。

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