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大海

 誰が言ったか知らないが、静寂は音がするということを耳にしたことがある。

「……………」

 シンと静まりかえった空間に、時折ペラッという紙を捲る音が聞こえてくるが、それ以外には静寂しかない空間。

 ソヴァルシオン大図書館の一角を借りて様々な種族の歴史を紐解くヒヅキであったが、やはりソヴァルシオンは人間の支配する地なだけに、保管されてる歴史書のほとんどが人間に関する歴史書であり、自然と人類史の調査になっていた。

「……………」

 静寂という音がしそうなまでに静かな空間で、ヒヅキは目的であるスキアについて書かれている部分を中心に、長い間大量の本を読んできたために自然と身についた技術を用いることで流れるような早さで読み進めていく。

「……まぁ、そう簡単に見つかる訳はないよね」

 最後のページを捲ったヒヅキは、本を閉じながら小さくそう呟いた。そこには失望などの暗い響きは一切なく、寧ろ愉快そうな響きすら感じられた。

 ヒヅキは本を元の場所に戻すと、ソヴァルシオン大図書館を後にする。

 図書館を出たヒヅキは、外の明るさに一瞬顔をしかめる。それは眩しさよりも不快感の方が強い表情だった。

「もうすぐ夕方か………」

 足早に行き交う人々を眺めながら、ヒヅキはソヴァルシオンの街を歩く。

 ソヴァルシオンはどこを見渡しても石畳がしっかりと敷かれていて、ヒヅキはそういうところからも街の実力というものをいやでも感じさせられていた。

 それは大通りに出ると顕著になる。

 床は変わらず石畳なのだが、正方形の2色の石板を交互に並べられたお洒落なもので、その上を溢れんばかりの人々が行き交う。

 道端もとても広く、おそらくカイルの村の全長より長かった。というより、この大通りだけでカイルの村が余裕で収まりそうで、何度見てもヒヅキは何とも言えない気持ちになる。

 そこに建ち並ぶ店も見るからに高級そうな店から庶民的な店まで幅広く、扱っている商品も日常品から嗜好品までありとあらゆるモノが集まっているようで、ここだけで世界を知ることができるような錯覚さえ覚える。

「……井蛙(せいあ)とはよく言ったものだな。どれだけ自分の世界が狭かったかをこれでもかと見せつけられてる気分だよ」

 ヒヅキは苦笑めいた笑いを漏らすと、人の流れに乗って大通りを見て回る。

「この大通りを隅々まで見ようとしたらどれだけの時間が必要なのかね」

 幅だけではなく長さもある大通りの先を遠い目で眺めながら、ヒヅキは思わぬところで世界の広さを痛感させられたのだった。

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