魔法道具13
それからも朝食を食べながら色々な話を聞いたヒヅキは、朝食を終えて部屋から背嚢を取ってくると、宿屋を出る。
「さて、とりあず偶像を見に行ってみるか」
ヒヅキは周囲を見回しながら町の中を進んでいく。太く大きな枝の根元部分に家が建っていたり、木の幹に扉が付いている以外には、ただの森と然して変わらないその町は、住民の大半が首都に移動したからか、微風に揺れる葉擦れの音が煩く思うほどにとても静かであった。
申し訳程度に木を倒して拓かれた道は、獣道よりはやや広いぐらいであったが、迷わない程度には道である。
「…………」
そんな道を歩きながら、ヒヅキは幼い頃の記憶に今の町の様子を重ねて、違いを楽しんでいく。
かなり前の事だったために、そこまではっきりと町並みを覚えている訳ではないが、実際に歩いてみたからこそ思い浮かぶ情景もある。
「…………懐かしいが、目的の人物の居場所は不明」
再開の約束と共にネックレスを渡した少女の姿を思い浮かべて、困ったように息を吐く。正直、たとえこのままネックレスが戻ってこなくとも、ヒヅキはしょうがないと諦められるが、それでも僅かに寂しい気持ちはあった。
「何処に、という以前に生きているのかどうか」
そう口にしてみるも、ヒヅキがフォルトゥナと呼ぶその少女が、そう簡単に死ねるとは思えなかった。なにせ、飲まず食わずで数年もの間を生き延びられるような存在だ、常識で考えてはいけないだろう。
(……もしかしたら、力を貸している存在の影響か?)
ヒヅキも何度か死にかけた際に助けられた経験から、もしかしたらと考える。どうやら力を貸す存在達は、力を貸している相手が死ぬことを厭うようだから。
(だとしたら、まだどこかで生きているとは思うが……)
だからといって、10年以上前の約束の為だけに、酷い目に遭った町に居続けるとも考えにくい。それに、所詮は子どもの口約束だ。果たさなかったからといって、誰が責められようか。
「はぁ。確かこっちだったよな」
記憶を頼りに道を進むと、そこには中が空洞になった大きな木があった。
「あった。ここは変わらないな」
その木の中に入ると、上部から明かりが降り注ぐ空間に、1メートルほどの台座に載せられた、エルフの神だとする偶像が祀られていた。
獣のような4足の大きな身体に、2つの頭。片方の顔は顔面を殴られたかのように潰れていて、もう片方は顔が酷く爛れて歪んでしまっている。2つの顔は、両方ともに耳はエルフと同じ先の尖った耳をしていて、首は胴体から伸びた木の枝のように長い。
まさに異形といった感じの神ではあるが、更には背中には鳥の羽を大きくしたようなものまで生えている。
ヒヅキはその偶像の近くに建っている石碑に近づき、それに刻まれている説明文を読んでいく。
(リケサの話とそう大きな違いはない、か。しかし、なんで1つの胴体と2の醜い顔という文だけでこんな姿になったのだろうか? 他に資料があったのだろうか?)
説明文を読み終えたヒヅキは、再度偶像を見上げて、そう疑問に思う。
(確かに異形だが、これでいいのだろうか?)
エルフの価値観的には、醜い神というのはいいのだろうかと、今更ながらに疑問を抱く。ただでさえ他種族を見下しているエルフだが、自分達の先祖を救ってくれたという神は別枠なのかもしれない。
(しかし、これだけ特徴的なモノである為に、昔の記憶の中にも残っていたが、一度見れば十分だな)
特にそこから得るモノも無かったヒヅキは、木の中から外に出る。しかし、木の中も、上部から外の明かりが入ってきていたので、外に出たといった感じはしなかった。
(さて、次はどうしようかな?)
思った以上に何も無かったので、ヒヅキは余った時間の使い道について考える。
(当分義手は出来ないし、今の内に町中を歩き回って地形を把握しておくか)
そういう事にしたヒヅキは、特に目的もなく、ぶらぶらと町の中を歩いていく。町といっても森をそのまま使用しているので移動は大変ではあるが、森の中の移動については、もう随分と慣れたものであった。




