魔法道具9
「まぁ、大丈夫ならよかったよ。ここらで義手を頼んだってことはあそこか。腕は確かだから、いい義手が出来るだろうね」
リケサの言葉にヒヅキが頷くと、不思議そうにリケサは口を開く。
「そういえば、ヒヅキは魔力を操れるの?」
エルフは魔力の扱いに長けているが、人間はそうとは限らない。なので、それは当然と言えば当然の疑問であった。魔力をろくに操れないのであれば、魔法道具など宝の持ち腐れどころか、邪魔でしかない。魔法道具は魔力を扱えることを前提に設計されているのだから。
「まぁ、魔法道具を扱える程度には、ですが」
「そっか! 人族で魔力扱えるのは珍しいね」
「魔法を使える人間はそこまで多くはないですからね」
といっても、それはエルフに比べればに過ぎない。
「僕達エルフは魔力の流れを感じられるけれど、人族は無理なんでしょう?」
「そうですね。魔力の流れは分かりませんね」
エルフは生まれながらに魔力の流れが解るといわれているが、人間にはそれはない。だからといって、エルフの全てが魔法に長じているかといえば、そういう訳ではない。
「それでよく魔法が使えるね」
心底不思議そうなリケサに、ヒヅキは小さく笑う。
全てのエルフが魔法に長じている訳ではないが、それでも魔法が使えないエルフは少ない。簡単な魔法であれば、ほぼすべてのエルフが使用できる。
それは魔力の流れがみえるからだが、故に魔力の流れがみえないというのに、一部の人間とはいえ魔法が使えることが不思議でたまらないのだろう。
「みえなくとも感じることが出来ますから」
「なるほど。そういうものなんだ」
大きく頷くリケサ。解る部分があるのだろう。
「因みに、ヒヅキは何の魔法が使えるの?」
「身体強化ですね」
「おお、なるほど。基本の魔法だね」
「ええ」
「それでここまで無事だったのか」
「どういう意味ですか?」
「今この国はスキアで溢れているからさ、よく無事に到着できたと思ってね」
「ああ、なるほど」
実際はスキアを倒してきたのだが、それを言う必要はないので、頷くだけで何も答えない。
そのまま少し静かに食事をしていると、ヒヅキは気になったことを質問する。
「そういえば、やはりエルフの兵士は全員魔法武器を装備しているんですか?」
「しているね。この国では造るのは魔法装備が多いから、全員に行き渡らせるのはそんなに難しいことではないんだよ」
「なるほど。それは納得ですね」
魔法道具や魔法装備はエルフの国の特産品の1つではあるが、同族以外には高額で売られる場合が多く、また一部を除いてかなり重い関税も掛けられている。その為に、エルフ以外には難しい芸当であった。もちろん、魔法道具や魔法装備はエルフ族の専売特許という訳ではないので、他所の国で作られていない訳ではない。しかし、質に歴然とした差があった。
「それに冒険者も加えているというのに、スキアに圧されるとは、冒険者の数が少ないのですか?」
「いや、冒険者も結構居たはずだよ。だけれど、それ以上にスキアの数の方が多いってことだね」
「そうでしたか」
状況としてはカーディニア王国に近いものがあるが、それでも冒険者が協力している分かなりマシであろう。
「だから首都の方も安全とはいいがたいんだよね。それもアルコ様次第だけれど」
「それほど追い詰められているのですか」
魔法装備で身を固め、なおかつ冒険者達も協力したうえで、首都に守備を一本化しているというのに、それでも滅びる一歩手前というのは、それだけスキアという存在の脅威を示している。
「ああ。もしかしたらこの国も終わりかもしれないね。でも、他の国も似たようなものと聞くし……ああ、そういえばカーディニア王国はスキアの撃退に成功したって小耳に挟んだんだれど、本当?」
懐疑的にリケサはヒヅキに確認する。
「ええ。現在カーディニア王国ではスキアは確認されていないようですね」
そのリケサの問いに、ヒヅキは軽く頷いて肯定した。