魔法道具8
「エルフの国の現状についてお尋ねしてもいいでしょうか?」
食事を始めて少しして、ヒヅキはリケサに問い掛ける。
「現状? 現状はここと首都以外潰滅。生き残った国民の大半が首都に避難していて、首都を兵士と冒険者達が護ってるってところかな」
「そんななかで、何故ここは無事なのですか?」
「それは、アルコ様が護って下さっているからさ」
「アルコ様?」
「ああ、こっちよりも氷の女王の方が知られているかもしれないな」
リケサの話に、ヒヅキはガーデンでサファイアから聞いた話を思い出す。
「その名前なら聞いたことがあります」
「おぉ! 流石はアルコ様だ」
「それで、何故ここを?」
「さぁ? それは知らない。ただ、アルコ様が護って下さっているから、この町と首都はまだ残っているんだよ」
「なるほど。でも、ここと首都では結構距離が在るようですが?」
ヒヅキは、来る途中で木に登って確認した首都の様子を頭に思い浮かべる。
「普通なら、急いでも十数日は掛かるかな。でも、アルコ様はその距離を1日掛からないんだ!」
「それは凄いですね」
頷きつつ、ヒヅキはカーディニア王国で十数日掛かる道のりを参考に、自分ならどうだろうかと想定してみる。
(まぁ……不可能ではないな。疲れるけれど)
身体強化で重点的に脚を強化して移動すれば可能だと判断したヒヅキだったが、それはヒヅキが身体強化を得意としているからに他ならない。
(それだけの手練れ、ということか)
ほぼ一人でスキアを倒している時点でかなりの手練れではあるが、ヒヅキは改めてそれを実感する。
「その氷の女王という方は、冒険者なのですか?」
「いいや、普通のエルフだよ」
「そうなんですか」
自分と同じという事に、少し嫌な予感を覚える。冒険者以外でスキアを倒せる存在など、かなり珍しい。いや、普通は存在しない。
「だから凄いんだよ! あぁ、それでいてまた美しいんだ!」
英雄譚を語り聞かされている子どもの様に瞳を輝かせて遠くを見つめるリケサ。目の前に氷の女王の姿でも夢想しているのだろう。
「そういえば、首都は未だにエルフしか入れないのですか?」
そのヒヅキの質問に、リケサは苦笑いを浮かべる。
「ああ。首都の奴らはお堅いからね。エルフこそ至高、エルフ以外は無価値と本気で思い込んでいる奴が多いと思うぞ。誇りを持つのはいいが、他種族と交流を持っている僕達からすれば、そんな事はないと知っているんだけどね」
「そうでしたか。では、エルフの国に滞在していた他種族の方々は?」
「この町に居るか、祖国か森の中にでも逃げたか……殺されたか、だね」
「そこまでやりますか」
「首都の奴らはそういう連中、ってことさ」
「では、王族の方々も?」
ヒヅキの記憶では、首都の上層には王宮があると聞いていた。
「それは分からない。他種族を排するような命令は出されていないから違うかもしれないけれど、実情は分からないね」
「……今回他種族を殺すように命令したのではないのですか?」
「聞いた話でしかないが、それは現場指揮官の判断らしい」
「なるほど」
(少なくとも、そこまではそういう意識があるという事か。人間もエルフも変わらないな)
内心で呆れるヒヅキに、リケサは真剣な表情で忠告する。
「だから、首都にはいかない方がいい。もしかしたら、近づくだけでも危ないかもしれない」
「そこまでですか」
「今は特にスキア相手で殺気立ってると思うからね」
「なるほど。外観だけでも眺めてみたかったのですが、肝に銘じておきましょう」
「そうしてくれ。友達は亡くしたくないからね」
リケサは寂しげに笑うと、思い出したように視線をヒヅキの左腕に向ける。
「これは事故で失くしてしまいまして」
何を訊かれるかは解っていたので、ヒヅキは先回りしてそう答えた。
「そう、なのか」
同情するような目を向けられたヒヅキは、問題ないと肩を竦める。
「先程義手を造ってもらえることになったので、大丈夫ですよ」
そのヒヅキの言葉に、リケサは驚いて大きく目を見開く。
「義手!? 魔法道具のやつか? それとも普通の?」
「魔法道具の方ですよ」
ヒヅキの返答に、リケサは驚きのあまり立ち上がった。
「あれもの凄く高くなかったか!!?」
「ええ。たまたま実入りのいい仕事をしてきたばかりだったので、なんとか足りました」
「そ、そうだったのか」
椅子に座り直すと、リケサは心を落ち着けるように小さく息をついた。