魔法道具6
店主の問いに、ヒヅキは自分の左腕に目を向ける。
「……事故に、遭いまして。それでこの有り様です」
左腕を軽く持ち上げ冗談めかしたような困った笑みを浮かべたヒヅキに、店主はヒヅキの左腕と顔を交互に見比べてから口を開く。
「なら、義手でも付けるか?」
「義手ですか。そうですね……」
「ただの義手じゃないぞ。エルフ謹製の魔法道具だ!」
「魔法道具ですか。どんな義手で?」
ヒヅキの問いに、店主は得意げな笑みを僅かに浮かべた。
「まず、魔力回路が搭載されているので、義手でも魔法が使える。それに、魔力を用いて元々の手と同じように動かす事も可能」
「それは凄いですね」
「まだまだ。それでいて丈夫で軽い。整備も簡単だから、保守も難しくない。取り外しは少しコツがいるが、慣れれば簡単だ。勿論、元の手と同じように動かせるんだから、力調節も慣れればできる。あと、逆に元の手以上の力も出せるな」
「なるほど」
「まぁ、その分値段も張るがな」
店主はどうするかと、ヒヅキに目で問い掛ける。
「どれぐらいですか?」
「さっき両替した金にちょっと色を足すぐらいか。ま、そこらで家買った方がまだ安い値段だが、その分品質は保証する」
店主の言葉に背嚢へと目を落としたヒヅキは、店主に目を戻して問う。
「カーディニア硬貨払いでもいいですか?」
「勿論」
「では、これで足りますか?」
そう言うと、ヒヅキは背嚢から先程よりも重い袋を2つ取り出す。
「……自分で話を振っといてなんだが、お前さん金持ちだな」
「最近たまたま実入りのいい仕事があっただけですよ」
「そうか。まぁ……こんなものだな」
店主は受け取った袋から必要分の硬貨を取り出すと、残りを1つの袋に纏めて戻してヒヅキに渡す。
「ほら、これは流石に多い」
「……相変わらず実直ですね」
「商売は信頼が大事だからな。少なくとも、お得意さんには真っ当な商売をするさ。それも金払いのいい上客にはな!」
ニヤリと口角を持ち上げると、店主は巻き尺と紙を手に立ち上がり、勘定台を回って外に出てきてヒヅキの前に立つ。
「まずは寸法から測るぞ。それから造るから、数ヵ月ぐらいは掛かるが、大丈夫か? 無理そうなら元からあるので何とかするが」
「問題ありません。丁度それぐらいは滞在している予定でしたから」
「そうか。それまでにスキアに邪魔されない事を祈るんだな」
「はは。そうですね」
寸法を測りながらの店主の言葉に、ヒヅキは笑いながら頷く。
「よし! これでいいだろう」
紙に測った寸法を書き終えると、店主は元の位置に戻る。
「それじゃ、時間を置いてまた来てくれ。明確な時間は示せんが、今は暇だから、いつもよりは少し早めに出来るだろうさ」
「分かりました」
ヒヅキは頷くと、背嚢を背負って店を出ていこうとするが。
「宿屋は前使ってたいつものところか?」
「その予定ですが、まだありますか?」
「ああ、まだやってたはずだ。客はいないが」
「そうでしたか」
「じゃあ、何かあったらそっちに連絡するよ。他にやる事もないからな」
「ありがとうございます」
店主に礼を言うと、ヒヅキは店を出る。
「さて、そろそろ宿でも取るか」
すっかり暗くなった町を、ヒヅキは宿屋目指して進んでいく。
「しかし、義手ね」
左腕に目を向けたヒヅキは、考えるように呟いた。
「ま、エルフの魔法道具は名高いから、期待して待ってみるか」
道に沿って町を進むと、宿屋の明かりが見えてくる。
「本当に営業しているな。よかった」
鍛冶屋の店主の言葉通りに営業していた事に安堵しつつ、ヒヅキは宿屋の中に入っていく。
「え! い、いらっしゃい!」
ヒヅキが中に入ると、久しぶりの客に驚いたようで、奥から慌てて店員が出てくる。
「いらっしゃい!」
奥から出てきたのは、先程の鍛冶屋の店主と違い、細身のエルフであった。




