魔法道具4
「人口が多いと何かあるのですか?」
「いえ、いいわ。それは大した問題じゃないもの」
「そう……ですか?」
「ええ。それよりスキアだけれど、神によって生み出されているのは、何もエルフの国だけではないわよ?」
「そうなのですか。ならば、今の事態はその結果だと?」
「ええ。ヒヅキが人間の国で対処したスキアも、多くが途中で生み出されたスキアだったと思うわよ」
「そうでしたか。それでは、神は世界を亡ぼすつもりで?」
「多分、違うと思うわよ。ただの暇つぶし。結果として滅びたらそれまで、ということなのでしょう」
「相変わらず、ということですか」
「ええ。変わらないわよ……変われないのよ」
困ったようなウィンディーネの呟きに、ヒヅキは目だけを覗き込むように動かす。
それに気がついたウィンディーネは、微妙な表情を浮かべた。
「神はね、それで完成しているのよ。変化できない訳ではないけれど、完成し過ぎていてそれは極端に難しい。変化するにしても途方もない時間が必要だから」
「……それはウィンディーネもですか?」
「ええ、そうね。だけれど、神ほど頑固じゃないわよ? 貴方達ほど柔軟ではないけれど、私ぐらいまでなら変化も出来るわよ」
「そうなんですか」
「もっとも、神を変えたければ同格の存在を連れてこなければ難しいでしょうけれど」
「神と同格、ですか。ウィンディーネは……違うんですよね?」
「ええ。相手は神ですもの、格は私よりも上よ」
「では、誰も変えられないので?」
「そうでもないわよ」
「そうなんですか」
「まぁ、唯一絶対の存在と言えなくもないけれど…………難しいわね」
少し長めに思案したウィンディーネは、処置無しとばかりに肩を竦める。
「ま、そんな事は今はいいわ。それより、ヒヅキはこれからどうするの?」
「と、言いますと?」
「用が済んだら観光すると言っていたけれど、今調べてみたら、どうやらエルフの国は首都以外ほぼ全滅みたいよ?」
「目的の町もですか?」
「いいえ。そこだけは例外的に残っているわね」
「そうでしたか。なら、まぁ大丈夫でしょう。未だに首都はエルフ以外立ち入れない可能性もありますが、町が一つでも残っているならそれで問題ないです。観光も、森の中でも歩き回ればいい訳ですし」
「ふふ。スキアの闊歩している森の中を散歩するとは、ヒヅキだから出来る事ね」
「まぁ、スキアの大群に襲われたら私でもひとたまりもないですが……こんな森の中で魔砲は極力使用したくありませんので」
「そうね……なら、私が一ヵ所面白い場所に連れていってあげるわよ」
「面白い場所?」
「ええ。面白い場所というか、紹介したい相手が居るのよ」
「…………ウィンディーネの紹介、ですか」
声音も表情も嫌そうにするヒヅキに、ウィンディーネはにこやかな笑みを向ける。
「ええ。もしかしたら、ヒヅキにも益になる出会いかもしれないわよ」
「……はぁ。そうですか、それは楽しみですね」
全く期待していない声音でヒヅキがウィンディーネに言葉を返したところで、木々の合間から目的の町が少し見えてきた。
「ようやく到着出来そうです」
「そうね。移動だけでも面白かったわよ」
「……そうですか。さて、彼女は、フォルトゥナはまだここに居るのかな?」
ヒヅキはウィンディーネの言葉を適当に流しつつ、目的の人物を思い浮かべる。
出会った頃は、捨てられたぼろ雑巾よりも酷い姿をしていたが、別れ際には浮浪者と呼べる程度にはなっていた。
そんな少女の姿を思い浮かべるも、何分一緒に居たのは子どもの頃なので、成長して別人になっているかもしれないという懸念があった。それに、もう薄汚れていたあの頃とは違うだろうから、同一人物と認識出来るか微妙なところ。
(せめて、あのネックレスだけでもしていてくれたらな)
そんな心配を抱きながらも、ヒヅキは町の中へと入っていく。