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魔法道具2

「それならば、反対方向ね」

 ウィンディーネは先程までヒヅキが向かっていた方角とは反対方向に目を向ける。

「ああ、やっぱり」

 それにヒヅキは困ったように頭をかくと、疲れたように息を吐き出した。それから足の向きを変えて歩き出す。

「しかし、静かですね」

「この辺りは元から静かじゃなかったかしら?」

「それはそうなのですが、もう少し動物の鳴き声とかがしていたと思うのですよ」

「まぁ、そうね。エルフも国境から離れれば離れるほど居なくなっているようだし」

「これはやはりスキアの影響、ですかね?」

「他に何かあったかしら?」

「ですよね。……うーん、何処かに一体ぐらい居ませんかね?」

「珍しいわね、ヒヅキがスキアを求めるなんて」

 ウィンディーネの言葉に、ヒヅキは自嘲するような苦い笑みを浮かべながら、目の前に右手を持ち上げる。

「身体の調子を確かめたいのですよ。ただ動く分には問題ないのですが、戦闘となると勝手が違いますし。それに、左腕の事もありますから」

 ヒヅキは失くした左腕の肘から先へと目を向ける。

 腕を失って十数日が経過したものの、未だにそこに腕が在るような気がしてしまい、背嚢を降ろしたり背負い直したりなどの何気ない仕草でつい左手を使おうとして、その度に現実を思い知らされて妙な気分になっていた。

 しかし、そんな状態でも右腕が在れば光の剣は現出できるし、魔砲も放てる。光球に至っては、最早手を使う必要さえなかった。

 それでも片方の腕が無いと、平衡感覚からして微妙にずれてしまっているので、日常生活では問題なくとも、一瞬の判断が必要になってくる戦闘ではその限りではない。

「なので、早めに適度な強さの相手で確かめておきたいのですよ」

「適度な強さ、ね。私達ならまだしも、人間でありながらスキアが調子を確かめる程度の相手にしかならないというのは、中々傑作ね」

「……そうですね。普通ではないでしょう」

「あら、やけに素直ね」

「事実ですから」

「ふふ。まぁ、スキアならそこらに居るわよ。案内しましょうか?」

「お願いします」

「こっちよ」

 ウィンディーネは方角を少し変えると、ヒヅキを先導して移動を始める。

 まるで滑っている様に進むウィンディーネを眺めながらも、周囲の気配を探っていたヒヅキは、スキアの存在を複数捉えるが、ウィンディーネが向かっている先で確認出来るのは、三体のスキアのみ。

「ふふ。少し遠いから、こちらに呼んでみようかしら」

「そんな事が出来るので?」

「近くに呼ぶ程度なら簡単よ。それで、どうする?」

「お願いします」

「分かったわ」

 ヒヅキの言葉にウィンディーネが頷くと、スキアが反応して移動を始める。ヒヅキの足でも普通に進めば数時間は掛かるであろう距離だが、スキアに掛かれば数秒の距離であった。

「さ、あとは好きにすればいいわ」

 目の前にスキアが現れたと同時に姿を消すウィンディーネ。

 それに構わず右手に光の剣を現出させたヒヅキは、三体のスキアへと斬りかかった。

 スキアはヒヅキが振るった光の剣が触れた瞬間にその存在に気がついたようだが、既に遅く一体が消滅する。しかし、そこにすぐさま二体の攻撃が襲いくる。

「少し右に傾いてるな」

 その攻撃を木々の隙間を縫って回避すると、ヒヅキは一体のスキアの背後を取った。が、

「むぅ。想像以上に感覚のずれが酷いな」

 今までよりも移動速度が僅かに遅かった為に、ヒヅキが攻撃に移る前にスキアの攻撃が先に届く。

 それを横に跳んで難なく回避したものの、着地した際に微かに身体の芯がぶれる。

「チッ!」

 大事には至らなぬ小事ではあるが、その僅かな失敗にヒヅキは思わず舌打ちをした。

(腕が少し無くなっただけで、ここまで上手くいかないものか)

 ヒヅキはスキアの攻撃を回避しながら、身体の感覚の微調整を行っていく。

(もう少し付き合ってもらいますよっと)

 木々の合間を器用に移動し、時に木の上に飛び乗ったりしながらスキアの攻撃を避けていたヒヅキは、残っていた二体の内の一体を消滅させる。

(それにしても、ここの木は丈夫だな)

 スキアの攻撃が直撃しても、軋むだけで2、3発は耐えてみせる木に、ヒヅキは感心しながら攻撃を躱すことに専念する。そうしながら、現在の身体の調子を感覚に馴染ませていく。

(もう少し、あと少しで上手く回りそうなんだが……)

 残った一体のスキアの周囲を動き回り、ヒヅキはスキアの攻撃を促す。

 そんな事を半刻ほど続けた結果、現在の身体の状態に完全に馴染んだヒヅキは、相手をしてくれたスキアへと光の剣を振り下ろした。

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