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魔法道具

 カーディニア王国からエルフの国に入ったヒヅキは、遥か昔の覚束ない記憶を頼りに、広大な森の中を進んでいく。

 エルフは自然をそのままに住むために、基本的にカーディニア王国の様に親切に道が敷かれてはいない。

 そして、ヒヅキは道に覚えがない森との相性がよろしくないようで、ろくに記憶に残っていない森の中を進んだ結果。

「……はて、ここはどの辺りだろうか?」

 ヒヅキは周囲を見回し、首を傾げる。先程から同じような景色ばかりが続いている。

 エルフの国に入って、かれこれ約一日歩き続けている。しかし、本来であれば結構な深さまで進めているはずなのだが、ヒヅキは直進しているつもりで大きく曲線を描くように蛇行している為に、目的地からは逆に離れていっていた。

「何というか、これはこれで面白いのよね」

「ん?」

 周囲に誰も居ない森の中だからか、実体化しているウィンディーネが、ヒヅキの隣で感慨深げに呟いた。

「ヒヅキは真面目に迷子になるのが可愛いところよね」

「……不真面目に迷子になる状況がよく分からないのですが」

「ふざけてたら見知らぬ場所だった。みたいな?」

「聞かれても困るのですが」

「ふふ。そうね」

 楽しげなウィンディーネに、ヒヅキは疲れたような息を吐きながら進む。

「しかし……本当にここはどこなんでしょうね」

「教えてあげましょうか?」

「……いえ、もう少し自分で探してみます」

「そう? 訊きたくなったらいつでも訊いてちょうだい」

「ええ。ありがとうございます」

 ヒヅキはウィンディーネに礼を言うと、思い思いの方角へと進んでいく。

「……上から見たら分かりませんかね?」

 立ち止まったヒヅキは、木の上に目を向ける。そこには十メートルを超える巨樹が空を覆っているが、太陽の明かりが葉の間から適度に入ってきている。

「人間の街の様に切り開いて町をつくっている訳ではないから、どうかしら? 首都の巨木ぐらいは見えると思うから、方角ぐらいは分かるでしょうが」

「なるほど。ですが、方角が分かるだけでも十分でしょう」

 そう言うや否や、ヒヅキは枝の上へと飛び乗り、そのまま跳躍しながら器用に頂上へと登っていく。

「えっと……」

 頂上まで登ったヒヅキは、片手で木を掴みながら周囲に目を向ける。

「首都の巨木は一際大きいと聞くから……あれか?」

 ぐるりと見渡した先で、天を衝くかの様な巨木が薄っすらと確認出来たヒヅキは、その方角を向いたまま木を降りていく。

「あちらに首都と思しき巨木が見えたから……えーっと」

 頭の中に目的の町と首都の位置関係を思い出しつつ、今見えた方角から現在地の方角を割り出していく。

「…………あれ? ここ反対方向じゃない?」

「そういえば、ヒヅキの目的の町について聞いてなかったわね」

「ああ、そう言えば」

 ウィンディーネの言葉で思い出したヒヅキは、昔の記憶を掘り起こしながら町について簡単に説明していく。

「目的の町は、私が子どもの頃に一年程滞在した町で、商業が盛んな町だからか、エルフの国にしては他種族もそれなりに居たんですよ。そして、商業の町であり職人の町でもあってですね、他国や他の町から商人やその護衛に旅人やらが大勢来たので宿屋も多くて、それはそれは賑やかな町だったんですよ。それこそ住民は千にも満たないというのに、町の中には数千人も居たぐらいで――」

 ヒヅキはウィンディーネに目を向けてはいるものの、どこか遠くを眺めながら懐かしげに語る。しかし語る内容は、まるで他人から聞いた話でもしているようかの様な、薄っぺらい感じであった。

 それを一通り聞いたウィンディーネは、記憶の中を探っていく。

「町のことに興味なんてないからあまり覚えていないけれど、多分解ったと思うわ」

 それで何かを思い出したのか、ウィンディーネは思案するような恰好のまま、そう答えた。

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