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氷の女王12

「た、助けて!!」

 首から下が凍りついた男は、顔面を蒼白にしながら震える声で周囲に助けを求める。

 しかし、当然のことながら誰も助けてはくれない。エルフ王もイデアルもイハも僅かに同情の色を浮かばせつつも、静観の構えを崩そうとはしない。

 副隊長や他の警備兵達は声こそ上げないが、離れたところから口惜しげに見詰めている。

 最も近くに立つアルコは、首だけを男に向けながら、ただ冷酷に見下ろしている。その瞳の中には、汚物を見るような軽蔑した色が微かに混じっていた。

 そんな状況に、男は訳が分からず混乱と恐怖から呼吸を荒げ、目を様々な場所に助けを求めて巡らすが、何も答えは出てこない。

 しばらくそのままの状態が続き、男は自分が何をしたのか、何故こんな仕打ちを受けているのか理解する暇もなく、頭部まで凍りついた。

「…………」

 その男を無感情に見下ろしていたアルコは、凍りついた男へと近づき足を持ち上げると、躊躇なく男の頭部を踏み砕く。

「しかし、こうなるという事は、やはり知っている者は始末しなければいけないのでしょうね」

 踏み砕いた男を見下ろしながら、アルコはそう呟く。それに、その場に居た全ての者の背にゾクリとしたものが走る。

「ま、待ってくださいアルコ! 今後このような事が起きないように努めますわ!」

「努める?」

 アルコはゆらりと振り返ると、その冷え切った目をイハに向ける。それはあまりにも感情の感じられない目であった。

「や、約束しますわ!」

 その瞳で、イハはアルコがいかに自分達に興味が無いのかを改めて理解させられ、慌てて訂正する。

 そんなイハを数秒眺めたアルコは、エルフ王に目線を動かす。

「勿論だとも。約束しよう!」

 即座に頷いたエルフ王から、次はイデアル。そして警備兵達へと目を向け、全員にそれを約束させた。

「次は無い。たとえここに居ない者であろうと、次に誰かが私の名を汚したら、この国を滅ぼす」

 抑え込まれた怒りの籠った鋭利な言葉に、その場に居た全員は心臓を掴まれたような思いで首を縦に振った。

 それを見届けたアルコは、「帰る」 と一言だけ残して去っていく。

 角を曲がりアルコの姿が見えなくなっても、全員は金縛りにでもあっているかの様に身体を硬直させたまま動かない。

 少しして、誰かが小さく息を吐き出した音で、呪縛が解けたかのように、空気ごと全員が弛緩する。

「イデアル、今の話を徹底させろ!」

「はい! 勿論で御座います!」

「お前達もだぞ! 他言無用。戯れにも口にするな! 無論アルコが居ないところでもだ!」

「は、はっ!」

 エルフ王はすぐさま全員に緘口令を敷く。次に同じことが繰り返された場合、アルコは本気で国を滅ぼしにくるだろう。スキアだけでも手に余る現状では、それを防ぎようがなかった。それに、アルコが戦わないだけでも、エルフの国は確実に滅びるだけなのだから。

 全員が了承したところで、エルフ王は警備兵達に男の残骸の片付けを命じると、そのままイデアルと共に王宮内を移動していく。その途中で窓の外へと目を向けたエルフ王は、寂しげな笑みを浮かべた。

「あの者が今の私を見たらどう思うのだろうな」

「あの者、ですか?」

 イデアルの問いに、エルフ王は「何でもない」 と軽く首を振る。

「それよりも、ここ以外の住民の退避は全て済んでいるのか?」

「アルコ様が守護されている町以外の住民の収容は完了しております」

「他種族もか?」

「いえ。元々の住民の反発を考え、エルフ族だけです」

「そうか……そろそろその意識も改善して欲しいところだがな。しかし、あれだけ離れた地をよく守護出来るものだ」

「はい」

「冒険者でも出来ぬのであろうな」

「そのようです」

「……我らは何を競っていたのであろうな」

「どういう意味でしょうか?」

 イデアルの質問に、エルフ王は虚しげな笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。

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