氷の女王9
スキアとは何なのか? そんな事、アルコにとってはどうでもいい事であった。ただ、目の前に立ちふさがるのであれば、関係なく滅するのみ。
相変わらず直ぐにアルコへと救援要請を出す醜い者達の許に到着したアルコは、そこで戦っていた七体のスキアへと、アルコが最も使い慣れている氷魔法の1つである、氷の棘を大量に飛ばす。
ただそれだけで、醜い者達が救援要請を出さねばならないまでに苦戦していたスキアはあっさりと消滅していく。
それを確認したアルコは、早々に別の方面へと移動を始める。
(ちまちまちまちまと)
スキアは一体だけでも、町の潰滅どころか国の存亡にかかわるぐらいに強い。そんなスキアに対処するには、魔法が付加された武器を身に付けた冒険者が複数人必要になってくる。
それだけ強いスキアの集団を、アルコは虫を手を払うぐらいの気楽さで倒せてしまうので、数体から十数体のスキアが小出しに攻めてくる状況に嫌気が差していた。
次の救援要請先も、似たように数体のスキアが攻めてきていただけであった。
そんなアルコだからこそ、その程度のスキアで苦戦できるのが不思議でならない。
行ったり来たりと首都周辺の町へと赴きスキアを倒しつつ、合間に家が在る町にまで足を延ばす。町にはたまにスキアが顔を出すだけで、最近は興味が失せたかのように、ほとんど襲撃して来ない。おかげで何とか防衛は出来ていた。
夜が更けていようとも、スキアに時間は関係ない。
アルコは幼い頃に長いこと飲まず食わずで、更には睡眠を取らなくとも何故か死ねなかったが、それは今でも同じであった。
助けられて以降、アルコがそれについて疑問を抱いたことはただの一度もない。飲食は不要でも出来ない訳ではないし、睡眠も取ろうと思えば取れたから。
(助けて、助けて、助けてと、助けを呼べばいいと思って……)
いくら助けを呼んでも誰も手を差し伸べてくれなかった幼い頃を思い出し、アルコの中で急激に憤怒の念が湧き上がっていく。
しかし、そんな中でも最後に手を差し伸べてくれた少年の顔が浮かび、その殺意にも似た怒りの炎が鎮火していく。それでも、完全には消えてはくれないほどに根は深い。
アルコは各地の救援要請先へと向かいながら、スキアを殲滅していく。
そうやってアルコが対処していってはいるが、エルフ側に被害が無い訳ではない。エルフの兵士も冒険者も確実にその数を減らしている。
そろそろ首都周辺の町の防衛にも限界が見え始めたエルフ側は、これ以上数が減る前にと、幾つかの町を放棄することを決め、その分を他の防衛に当てる事にした。
それに伴い住民も避難させたが、その影響で首都がスキアに晒されることになる。
それでも、そのままじり貧で滅亡するよりはマシという判断であったが、全てを首都に集中させないのは、単に容量の問題で、周辺の町の住民を全て受け入れるには、今の首都では少々手狭であった。
急ぎ区画整理が行われ、王宮の下の層にある兵舎部分の一部までを開放する事でなんとか場所を確保したが、その頃には残っていた周辺の町もほとんどが限界であった。
受け入れ態勢が整った事で残りの町も放棄し、首都に生き残った住民を集めて、戦力も集中させはしたが、それでもスキアに抵抗するに満足なものではなく、結局アルコ頼みな所は変わらない。
そんな中でも頑なに首都に住む事を拒絶していたアルコは、首都と町の往復の生活をしていた。それでも首都に居る時間は以前より格段に増えはしたが。
そんな折、事件は起きる。それはいつもの様にスキアを撃退したアルコが、イハに呼ばれて王宮のある最上層に顔を出した時であった。
今回を含めた最近のスキアの状況の報告を執務室でイハに済ませ、イハから細々とした連絡事項や周辺国の現状の話、王宮に住まないかといういつもの勧誘などの話を聞かされた後、二人は執務室を出て廊下に出る。