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氷の女王4

「どちらがより国に貢献したかで争いたいのでしたら、ここではなくそれを決めている部署にでも行って訊いてきてください。そして、カベサ」

「はい」

「アルコ抜きでは、私達は首都だけでしたら護れる可能性があるかもしれない、程度でしかありません。それも長期に及べば、何処かから必ず破綻します」

「しかし」

「魔法道具が在る? 冒険者の方々が協力してくださる? これはそれらを踏まえたうえでの判断ですよ。今回はスキアの数が多すぎます。それでいて、襲撃してくる回数もまた多い。これではこちらが保ちません」

「市民にも協力を仰げば」

「スキア相手に調練も施していない市民をですか? 光明も援軍もない状態での総力戦など、消耗していくだけで国としては末期だと思いますが?」

「……では」

「逃げる、というのであれば、貴方が説得してくださいね? ご存知だとは思いますが、この国の民は気位が高いですから、逃げると説得するのは大変ですよ?」

「では、他の国に援軍を要請しては如何でしょうか?」

「他国に貸しを作るのですか。まぁ背に腹は代えられないですものね」

「はい」

「ですが、それは無理ですね」

 イハは机に積み上げられている資料の山から用紙を一枚を取り出し、カベサに差し出す。

「これは少し前に届いたばかりですので、まだ貴方は目を通していないでしょう?」

 それを受け取ったカベサは、その用紙に書かれている事に目を通していく。

「…………まさか」

「そう。そのまさかです。人間・ドワーフ・人魚・森人。私達の隣国も、同様にスキアにてこずっているのです。それで、カベサは何処に援軍を頼むのですか?」

「…………」

「現状を理解出来ましたか? そもそも首都を捨てたところで、私達には逃げ道さえありません」

「…………」

「この状況でまだアルコを否定出来ますか? 彼女のみが今の私達の救いなのですよ? アルコ抜きでは、数ヵ月も首都を護り抜けないでしょうね」

「…………分かりました」

 イハは冷徹な目でカベサを見遣る。それを受けて、カベサは奥歯を噛みながらも、絞るような声で了承した。

「それでいいのです。現在の彼女の価値は、王よりも重い。それを努々(ゆめゆめ)忘れないでください」

 現状を理解したカベサから、イハは視線をイデアルの方へと向ける。

「イデアル」

「はい」

「年長者を敬えとまでは言いませんが、軽んじてはいけません。私達が立つここを築いたのは、間違いなくその年長者達なのですから」

「申し訳ありません」

「まぁ、それも正しかったかどうかは別の話ですが」

「は?」

「その判断が正しかったかどうか判るには時間が掛かります。特に政策などは長期的にみている場合も在りますから。なので、その答えは後世の者が正否を下すのです。そういう意味では、先人が行った判断が現在正しいのかどうかを決めるのは、私達という事になりますね。そして、それは私達の今後の行いも同様です」

 そう口にした後、イハはイデアルだけではなくカベサにも目を向ける。

「はい。己を律し、後世に恥じぬ行いを心がけます」

「お言葉、肝に銘じます」

「そうしてください。ですが、気負う必要はありません。後世の見知らぬ方々など、私は知らないのですから」

 そう言って、イハは小さく笑う。

「ですから、その時その時で最善と思う判断をお願いします。間違っていたら修正すればいいのですから」

 もう一度カベサとイデアルに目を向けたイハは、一つ伸びをする。

「さて、まだ仕事が残っているのですよね?」

「はい。早めに目を通しておいてほしい書類が幾つか」

「ではそれを。私も後世の方々に笑われないように、今自分に出来る事をやりたいと思います」

 カベサから受け取った書類に目を通しながら、イハはイデアルに問い掛ける。

「それでイデアル。あの場に居たのでしたら分かるかもしれませんが、アルコは何故怒ったのでしょうか?」

 イハの質問に、イデアルは今朝の事を思い出そうと、記憶を探っていく。

「そうですね。おそらくですが、イハ様がアルコ様に、『あの町が好きなのね』 と、声を掛けたからではないでしょうか?」

 イデアルの答えに納得がいったイハは、あまりの自分の浅慮に苦笑いを浮かべた。

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