竜神9
「それで、肝心の身代わり人形はどうやって作ればいいのでしょうか?」
ヒヅキの質問に、ウィンディーネはジッとヒヅキを、観察するような冷たい目で見詰める。
その瞳を、ヒヅキは逸らすどころか、平時と変わらぬ態度で受け止める。
「そうね、特別に教えてあげましょう。でも、難しいと思うわよ?」
「そうですか。それでも、一応教えては下さいませんか?」
「必要なのは魔鉱石ね」
「魔鉱石をどうすれば?」
「魔鉱石を糸にして、人形を編めばいいのよ」
「魔鉱石を糸に? それはどうやればいいのでしょうか? それに、人形を編むとは? 私の知る身代わり人形は、木の板の様な感じでしたが?」
ウィンディーネの説明が理解出来ずに、ヒヅキは質問を重ねていく。
「もう少し詳しく説明すると、まずは糸で人形を編んで、それを潰して魔鉱石へと戻すのよ。ヒヅキが見たという木の板の人形は、潰し固められた人形ね。一度加工しているから、元々の魔鉱石からは変質していて分かり辛いと思うわ」
ヒヅキは前に見た身代わり人形を思い出し、木の板の様にしか見えなかったなと、感想を抱く。
「それに、凄く薄く作るから、時間が経てば木の板に見えるのかもしれないわね」
ヒヅキの考えを読んだかのように、ウィンディーネはそう付け加える。
「なるほど。それで、どうやって魔鉱石を糸にすればいいのでしょうか?」
「方法は幾つかあるけれど、一番簡単なのは魔法ね。でも、ヒヅキは使えないから、魔鉱石を砕いて固めて糸にする方がいいかしら」
「糸の様に細く固められるのですか?」
「可能よ。だけれども、これには魔法か、高度な技術と幾つかの設備が必要になってくるから、一番簡単な最初から砕いた魔鉱石を人型に圧し固める方がいいかしら? この場合、糸にして編んでから完成させたモノよりも品質が劣ってしまうから、あまりお勧めはしないけれど」
「その場合、身代わり人形にはならないので?」
「一応なるわよ。そこは、魔法を付加する術者の腕次第ね」
「魔法を付加、ですか。それは私にも可能なので?」
「ええ。これは誰にでも可能よ。だって、自身の生命力を注ぐだけですもの。魔法といっても、それを適切な場所へと誘導する為の道具に過ぎないから、僅かばかりの魔力があればいいだけですもの。もっとも、圧し潰して作った人形の場合は、その誘導を上手く行わなければ、必要以上に生命力を奪われてしまうけれど」
「生命力を注いで、大丈夫なのですか?」
「近くに大食らいの神でも居なければ、少量なら問題ないわよ。それでも、生命力を食べられている状態だと、寿命はその分減るけれど」
「なるほど。では、これを作っていた一族は短命だったので?」
「いいえ。その一族は少々特殊だったのよ」
「特殊ですか?」
「ええ。まず、自分の生命力が見える者が産まれる時があったのよ」
「生命力が見える、ですか。それは確かに面妖ですね」
「代々そう言った者が当主になったのだけれど、他にも生命力の扱いが上手く、人形に淀みなく生命力を行き渡らせることが出来たの」
「ふむ」
「なかでも最も重要な事は、当主になれるような者は、生命力の回復量が他の者よりも多かったのよ」
「それで短命にはならなかったと」
「ええ。その地には生命力を大量に食べるような存在が居なかったのも幸いしたわね」
「その人形は、一気に生命力を注ぐ必要があるのですか?」
「いいえ。少しずつでも大丈夫よ。ただ生命力が抜けないようにしなければならないけれど」
「生命力は抜けていくのですか?」
「ちゃんと閉じ込めないとね。だけれど、これが中々に難しいのよ。模造品の中には、これが上手く出来ずに、ただの人形になった物が大量にあるわね」
「そうなんですか。やはり難しいのですね」
「ええ。これを完璧に行って始めて命の身代わりになってくれるのよ。模造品は技術や知識が不足していて、これを完全には行えなかったのよね」
「私に出来ますかね?」
「ヒヅキは感覚が鋭いようだから、慣れれば出来ると思うわよ。まぁ、それまでに死ななければ、だけれど」
「……なるほど。もう少し詳しい方法を教えてもらえますか?」
「いいわよ。だけれど、他の者には教えちゃだめよ?」
可愛らしくそう言ったウィンディーネに、ヒヅキは反応を返さず、「勿論です」 と頷きを返す。
「じゃあ、教えてあげましょう。それは色々と役に立つでしょうから」
意味ありげに微笑んだウィンディーネは、ヒヅキに身代わり人形の作り方の講義を行っていく。