竜神7
ヒヅキが光球を動かながら周囲を探っていると、視界の端に小さな光を捉えた気がして、足を止めて天井を見上げる。
「……あれは、なんですか?」
目を向けた先に在る天井の一部を指差したヒヅキに釣られて、ウィンディーネは指が示す方向に目を向けた。
「ん? あの光っているやつかしら?」
「はい」
「あれは魔法の光ね。多分、何かの道具じゃないかしら?」
「光る魔法道具?」
「それは別に珍しくは無いわよ? あの魔法の光は火の魔法。街中にも溢れていたように、使い手が最も多い魔法ね」
「何の為に光を?」
「その方が見つけやすいんじゃないかしら?」
「はぁ。なるほど。それで、あれは何の魔法道具なのでしょうか?」
ヒヅキは手を伸ばしてみるも、天井は遥かに高く、たとえ脚部を強化して跳んだとしても、届くかどうか疑わしい。
「そうね……火の魔法道具ね」
「火の魔法道具ですか? だから光っていると?」
「それは関係ないわ。どうやらあれは、小規模な爆発を起こす魔法道具みたいね」
「それが何故あんな場所に?」
「さぁ? そこまでは知らないわよ」
ヒヅキは天井から少し顔を覗かせている魔法道具の真下付近まで慎重に移動すると、足元を光球で照らして調べてみる。
「……ウィンディーネ。あの魔法道具が起こす爆発はどの位の規模になるか分かりますか?」
「込められている魔法の規模からみて、周囲数十メートルぐらいじゃないかしら?」
「それ、使用者巻き込まれませんか? それに小規模?」
「起動までには時間が在るから大丈夫よ。爆発は結構規模が大きくなりがちだからね、これでも小規模よ」
「なるほど。それで、起動方法は?」
「衝撃を与えればいいんじゃないかしら? 地面にでも叩きつければ爆発すると思うわよ。ま、こんな場所で爆発魔法を起動させるのは余程の馬鹿か、形振り構っていられないかだろうけれど」
「そうですね。それと、これはなんですか?」
光球が照らす足元には、白骨が幾つか転がっていた。しかし、完全な状態の物は1つとしてない。
「骨ね。冒険者のと、冒険者じゃないのが混ざっているわね」
「そちらではなく、その近くに在る罠の方です。何か魔法の反応を感じるのですが」
「ああ。これは、天井の岩盤の中に対象を転移させる罠ね」
「…………」
「それであんな場所に魔法道具があるのね。誰かが踏んで飛ばされたということかしら」
「……戦闘跡もみられますが、ここには竜神以外の存在も居るのですか?」
「昔は居たけれど、今は居ないわよ」
「そうなんですか。何故居なくなったので?」
「死んだからよ。みんな残らず」
「何が居たんですか?」
「竜神の一部よ」
「一部? 切り離せるのですか?」
「魔力で創った生命体とでも思ってもらえればいいわ。想像しやすくするなら、魔物かしら」
「魔物?」
「あれは素体となる動物に穢れが感染した状態だけれど、それを自前の魔力で似た事をするのよ。もっとも、あの子は素体に自分の身体の一部を使っていたみたいだけれど」
「自分の身体の一部ですか」
「そう。主に剥がれた鱗とか爪なんかね。尾の先を切り落として素体にしたりもしていたわね。いくら再生するとはいえ、時間は掛かるというのに」
理解出来ないとばかり、小さく手を広げるウィンディーネ。
「それが、死んだんですか」
「これだけ穢れていれば、死んでしまうわ。素体が生きている訳ではないから、魔物の様に穢れて凶暴になるような事にはならないから」
「なるほど。それにしても、あれは危なくはないのでしょうか?」
ほぼ真上に見える光を捉えながら、ヒヅキは首を傾げた。
「いつかは落ちて爆発するでしょうが、あの規模であれば多分問題ないわよ」
「そうですか」
ヒヅキは足下に注意しながら離れると、一度頭上に目を向ける。
(小規模な爆発ね。少し調べてみたかったが、回収は無理だな)
直ぐに前へと顔を戻すと、慎重な歩みで奥へと進んでいく。
「そういえば、ここには遺物があるという話でしたが、見かけませんね」
「ここは広いから、見落としたのでしょう。それでも一番の遺物は、竜神の持つ宝の数々でしょうけれど」
「何があるので?」
「財宝ね。この世界では作られていない物とかもあったはずよ」
「それは一度拝見してみたいものですね」
「その為にも、この穢れをどうにかしないと」
「それはウィンディーネに任せます。外には出てもらうので」
「ええ。分かったわ」
ヒヅキの要請に、ウィンディーネは快く頷いた。




