竜神4
光球を先頭に、ヒヅキは壁伝いに右へと進む。
「ここは本当に遺跡……何ですか?」
「そうね。遺跡よ……多分」
「多分?」
「何といいうか、ここは神殿……の下だったのよ」
「神殿の下?」
「上に泉があるでしょう? あの辺りに昔は神殿があったのよ。ここはその下」
「はぁ……何故こんな大きな空洞が?」
「竜神の住処だから、かしら」
「?」
「あの子、普段は身体が大きいのよね」
「はぁ」
「上にある泉はね、本物ではあるけれど、入り口でもあるのよ」
「入り口ですか?」
「そ。竜神の住処へのね」
「はぁ。しかし、そんな話は聞いたことがありませんが?」
「それはそうよ。竜神が認めた者しか入れなかったし、尚且つ住処に繋がっていると知っていなければならないのだから」
「なるほど」
「だから、秘匿にされていたのよ。しかし、それも時が経つごとに廃れ、今では泉と竜神の名前だけが残ったのね。まぁ、それでも竜神は恵みを与えていたから、変わらず信仰の対象だったようだけれど」
「そうでしたか」
「ヒヅキが知っているように、竜神が恵みをもたらした結果、ここら辺では竜神信仰が盛んになったのよ」
「水の神といえば、ウィンディーネではなく竜神のようですからね」
「そうね。私は他の地域に居たからね」
「どこに?」
「秘密よ」
「そうですか」
「ふふ。まぁ色々よ。どこというほど固定された地域ではないわ」
「なるほど。それで、何故こちらに?」
「世界に異変が起きてきたから、世界の様子を見に出てきたのよ」
「では、ここに居るのではなく、世界を見に行っては?」
「いやよ。今はヒヅキの観察以上に優先する事はないわ」
「……いや、それは光栄ではありますが、違うと思います」
「ふふ。私にとってはそうなのよ」
「……はぁ。考え直してほしいものですね」
周囲を窺いながら進みつつ、ヒヅキは疲れた息を吐き出す。
「考え直しても変わらないわよ」
そんなヒヅキとは対照的に、ウィンディーネは楽しげに声を出した。
「そんな事もないと思いますよ。世界の異変とやらを調べるのでは?」
「んー」
頬に指をあてて考えるような素振りをみせたウィンディーネだが、
「それよりも、ヒヅキの観察の方が優先されるわね」
笑みを浮かべてそう告げる。それにヒヅキが呆れたような表情を浮かべるも。
「ん?」
そこで異変を感じて、ヒヅキは足を止めて周囲に目を向ける。
「ああ、ここは罠が在るわよ」
「そういえば、そんな事を言っていましたね」
ウィンディーネの言葉に、罠が多いというシラユリの話を思い出し、異変の正体を探る。
「しかし、何故ここに罠が?」
「どういう意味かしら?」
「ここは限られた者しか入れない聖域では? こんな侵入者を撃退するモノが必要とは思えないのですが?」
「まぁ、普通はそうね」
「普通は?」
「だって、ここは泉が在った森の地下でしかないもの。さっき降りてきた穴の様に、侵入は不可能という訳ではないのよ。もっとも、肝心の竜神の住処は、竜神の力で護られているから、半端な者では近づけないのだけれどもね」
「それは、このまま行っても大丈夫なので?」
「問題ないわよ。あの程度でヒヅキは阻めないから」
「そうですか」
ウィンディーネの言葉を聞きながら、ヒヅキは壁際にあった罠を解除する。それとともに、足下にも見つけた罠も。
「では、慎重に進むとしますか」
罠を解除したヒヅキは、周囲に目を向けながら慎重に足を運んでいく。
「奥にある気配ですが、やはり竜神で?」
「そうね。泉が穢れているのは、加護している竜神の穢れが進んだからのようね」
「それはまた面倒な」
「そうねぇ。ヒヅキでは勝てないものね」
「ウィンディーネが何とかしてくれるのでは?」
「穢れの方はいいけれど、でもここは地下だからねぇ」
「ああ、そういえば」
ウィンディーネの言葉に、ヒヅキは思い出して声を上げる。ウィンディーネは、力の源である生命力を地下ではろくに吸収することが出来ないという話であった。




