表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
417/1509

竜神3

 二人が向かった先には、穴があった。

 それは誰かが掘った穴というよりも、下にあった空洞部分へと地面が陥没したかのような、そんな荒々しい穴であった。

「これが遺跡の入り口の様ね」

 その穴を見下ろしたウィンディーネが、そう口にする。

「気配もこの下からですか」

 足下から這い上がるような気味の悪い気配に、ヒヅキはため息を吐く。

「さて、では入りますか……このまま降りればいいんですかね?」

 真っ暗な穴の中は、どこまで続いているのか分からない。それにもしもこのまま飛び降りれば、そのまま下へと直通の様な気がしたヒヅキは、光球を出して穴の中にそれを入れる。

「梯子……というほどのものではないけれど、誰かが作った足場。これは、話に聞いたシラユリさんの知り合いの冒険者が拵えたのかな?」

 穴を覗くと、確認出来る限り下へとまっすぐ伸びている穴の傍には壁があり、そこに足場となる杭の様なモノが打たれていた。

 シラユリがヒヅキにこの遺跡を教えた際の話に出てきた、遺跡調査をしているという知り合いが、この穴の下へと降りる為に用意したのだろうと考えつつ、足場の位置を確認する。

 ヒヅキはその一つに足を掛けると、安全を確かめてから、体重を乗せる。

 そのまま足を更に下の杭に置き、穴の縁に片手を引っ掛けると、もう片方の手を伸ばして、先程安全を確認した杭を掴む。

 そのまま穴の縁に引っ掛けていた手を離して杭を掴み、1歩ずつ慎重に確かめながら、ヒヅキは闇の中を降りていく。

「人間というのは大変ね」

 そんなヒヅキの背中に、浮きながらゆっくり降りているウィンディーネが声を掛ける。

「人間がどうこうではなく、そんな風に飛べる方が珍しいんですがね」

 ヒヅキは振り返ることなく、呆れたようにウィンディーネに言葉を返す。

「あら。昔は人間も空を飛んだのよ?」

「そうですか」

「本当の話よ」

「その時の人間には、羽でも生えていたんですか?」

「そういう時代もあったわね」

「それは凄いですね」

「あら。別に羽が無くても空を飛んでいた人間は居たのよ」

「そうですか」

「信じてないわね」

「信じられないというのもありますが、今は降りていくだけで精いっぱいなんですよ」

 光球の明かりを頼りに、慎重に足場を確認しながら降りつつ、ヒヅキはウィンディーネにそう返した。

「あら。それこそ、ヒヅキならそこまで慎重になる必要はないと思うけれど?」

「暗くて深さが分かりませんからね。あまり高い所から落ちたら、流石に私でも死にますよ」

「うーん……まぁ、そういう事にしてもいいけれど」

 少し考える仕草をしたウィンディーネは、不満げな声を出した。

「何かあるので?」

「その力は結構万能なのよ」

「万能?」

「でもまぁ、使わないならそれに越した事はないものね」

「どういう意味で?」

「別に深い意味は無いわよ」

「……そうですか」

「ええ」

 ウィンディーネが頷くと、ヒヅキは無言で降りる事に集中する。

 それからしばらくして、穴の底に到着した。

「結構深かったな」

 ほぼ垂直だった壁から降りたヒヅキは、入ってきた穴を見上げて、そこから入ってくる針の先程の小さな光を目にする。

「……長い縄でも用意してくれば良かったな」

 そんな今更ながらの感想を抱くも、背嚢の中には、そこまで長い縄は入っていなかった。

「まぁいいか」

 顔を戻して周囲を見渡すも、黒一色に塗りつぶされていて、光球が無ければ真横に居るウィンディーネの顔すら満足に確認出来ない。

 視界を確保するために、ヒヅキは光球を自分から離して周囲を照らすも、降りてきた壁以外は、どこまでも暗闇が続いているだけのようだ。

「広いな……」

 それに困ったように頭をかくと、とりあえず壁伝いに移動してみる事にする。穢れの気配は別の方角からだが、まずは場所の把握をするのが先決だろう。

「右か左か」

 壁を背にしたヒヅキは、左右に顔を向けて、どちらに進むべきか僅かに思案すると、右の方へと身体の向きを動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ