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竜神

 ウィンディーネの言葉に従い、ヒヅキは森の中を移動すると、プスィヒ平原に出る。

「やっと森を抜けられました。ウィンディーネ、ありがとうございます」

「構わないわよ、これぐらい」

 ヒヅキはウィンディーネに礼を言うと、ソヴァルシオンを目指して移動していく。ソヴァルシオンの近くまで行けば、整備された街道が目的の森の方角へと伸びているから。

 明るい中をしばらく進んでいると、起伏の乏しいプスィヒ平原の遠くに現れた、大きな壁が目に入る。

「特に思い入れもないのに、何だか懐かしいな」

 そのソヴァルシオンを囲っている防壁に、ヒヅキはそんな感想を抱いた。

 そのままソヴァルシオンの南の方へと向けて移動するも、途中で日が暮れてしまう。

 ヒヅキは背嚢から手早く防水性の敷き布を取り出すと、それを地面に敷いて座る。

「敵が居ない、というのはいいですね」

「居ない訳ではないわよ?」

「それでも少ないですし、警戒も楽です」

「まぁそうね。ここには地中に潜む敵も、空を飛ぶ敵もほとんど居ないものね」

「ええ。ですから、そこまで本格的に野宿の準備も必要ないのですよ」

 周囲には誰も居ないものの、ウィンディーネは声だけで姿を現さない。

「というよりも、ヒヅキに敵らしい敵も居ないと思うけれど?」

「寝込みを襲われたら困るではありませんか」

「その程度の認識なのが、既に敵が居ないことの表れだと思うのだれど」

「それでもウィンディーネには勝てませんよ」

「比較対象が神の時点で、おかしいとは思わない?」

「ウィンディーネが、近くに居る強者ですから」

「ふふ。まぁ、そう言う事にしておくわ」

 ウィンディーネの意味深な笑いに、ヒヅキは肩を竦めて、背嚢から薄手の小さな毛布を一枚取り出す。

「寝るのなら、見張りぐらいはしているわよ?」

「それはありがたいですね。お願いします」

 そのウィンディーネの申し出に、ヒヅキは礼を述べる。今までも数度同じように見張りを任せた事があっただけに、多少は信用していた。それでも用心は怠らずに、自分でも常に警戒はしているが。

 毛布を掛けて、ヒヅキはそのまま払暁まで浅く眠ると、目を覚まして周囲を窺う。

 まだ薄暗いなか遠くに人影はあるも、ヒヅキはソヴァルシオンからも街道からも離れたところに居るので、近くには誰も居ない。

 ヒヅキは背嚢から水筒と木の実を少し取り出すと、木の実を食べてから、水筒の中身を飲み干す。

「まだあの水瓶は使ってくれないのね」

 ヒヅキのその行動に、ウィンディーネがそう声を掛ける。そこには微量に残念そうな響きがあった。

「使わせて頂きますよ。これで水筒の中身は空になりましたから」

 水筒をひっくり返して、中身が空なのをウィンディーネに伝えると、ヒヅキは背嚢から水瓶と残りの空の水筒を全て取り出し、水筒の中身を補充していく。

 それをすべて終えると、出した物を全て背嚢に仕舞って立ち上がり、最後に敷いていた防水性の布まで背嚢へと仕舞って移動を開始する。

「結構時間が掛かりましたね」

 水瓶は、水差しの様に水を注ぎやすいような構造になっていたが、それでも湖などの時の様に、水の中に水筒を沈めて補充するよりは時間が掛かり、すっかり周囲は明るくなっていた。

 ソヴァルシオンを目指す人の姿が多く確認出来るが、ヒヅキはその流れに逆らい、南の方角を目指す。

(とりあえず、街道の方まで移動するか)

 南へ進路を取りつつも、整備されている街道を目指す為に斜めに移動しつつ、視界に小さく捉えている街道へと近づいていく。

 昼も大分過ぎた頃には石畳で整備された道に出ると、一路森を目指す。

(この道を通るのも、どれぐらいぶりか)

 ヒヅキが知り合った冒険者達と共にソヴァルシオンを目指した時には、ヒヅキはまだ身体強化以外の魔法が使えなかった。

(旅に出るというあの時の選択は間違っていたのか、正しかったのか)

 思わずそう考えてしまうも、それでもヒヅキに後悔は無かった。この旅で得たモノはそれなりにあるのだから。

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