斜陽64
プリスを呼びエインの準備が済んだ後、食堂で三人揃って食事を摂ると、ヒヅキは片づけを始めたプリスに、現在ガーデンに居る冒険者達の動向をについて尋ねた。
「冒険者の方々でしたら、仲間を失った翌朝に何かしらの会議を行った後、夕方頃にガーデンを発ってソヴァルシオンに戻っていったようですね」
「そうでしたか。ありがとうございます」
プリスの情報に、ヒヅキは礼を言う。
「仲間を失った、ねぇ」
そんなヒヅキへと、横からエインが目を向ける。
「君がやったのかい?」
「さぁ? どうだったでしょうか」
「ふふ。まぁそう言う事にしておこう」
惚けるヒヅキに、エインは小さく笑う。
「それで、君はこれからどうするんだ?」
「ガーデンを発ってエルフの国へ向かおうかと。そのついでに、新しく見つかったという遺跡を調べてみる予定です」
「新しい遺跡?」
「ソヴァルシオンの南の方に在る、森の中で見つかったそうです」
「ああ、あそこか。冒険者が探っていたが、私は存在の確認ぐらいしか出来ていないな」
「そうなんですか?」
「ああ。おそらく、陛下達はまだ存在すら知らないだろうよ」
エインは肩を竦めると、集めた食器と共に食堂を出ていくプリスの背を目で追う。
「そんな遺跡の調査だ、君ならば大丈夫だろうが、気をつけて行くんだぞ?」
エインの忠告に、ヒヅキは心得たとばかりに頷きを返す。
「勿論です。聞いた話では、奥に魔物が居るらしいですから」
「聞いた、ね……君のその情報網は、相変わらず妙なところで凄いな」
「そうですか?」
「そうだとも。私がそれを知ったのはつい最近だよ」
「私も同じですよ」
ヒヅキの言葉に、エインは呆れたよう息を吐いた。
「私は普段から情報を集めていて、やっと知ったのだよ。君は違うのだろう?」
「そうですね」
「だから感心するんだよ」
エインは軽く首を振る。
「個人的には、君が遺跡を調査した結果も知りたいところだが、それはエルフの国から帰ってきてから聞くとしよう」
「はい。エルフの国より戻って来た時は、エインを訪ねますから」
「絶対だぞ!」
「ええ、勿論です」
念を押すエインに、ヒヅキはしっかり頷く。
「ならばいい。それまでにもう少し自分を磨いておこう。今のままでは、君の褥を温めることぐらいしか出来そうもないからな」
冗談めかしてそう言うと、エインはやや自嘲気味に口の端を持ち上げる。
「それで、どれぐらいで戻ってくるんだ?」
「そうですね……観光もしますので、早くて数ヵ月。場合によっては一年以上はかかるかもしれません」
「また長いな。今回行って来た遺跡調査ぐらい、という事か」
「そうですね。目安としてはそれぐらいかと」
結局、遺跡調査には一年とまではいかなかったが、結構な月日をかけてしまっていた。
「ふぅ。長いが、後始末もやる事が多いからな。仕事で忙殺されればあっという間かもしれんな」
そう言うと、エインは疲れたように弱々しく笑う。
「まぁ頃合いを見て、適度に観光は切り上げてきますよ」
「……だといいんだがな」
エインは、ヒヅキの言葉に意味深にそう返した。
「どういう意味でしょうか?」
それにヒヅキが問い掛けると、エインはため息でもつきそうな声で答える。
「どうも君はおかしな事に巻き込まれる体質ようだからな。ガーデンでのスキアもだし、遺跡から帰ってきたら神様を連れていたりな。そして、今回は侵攻軍だ。エルフの国での用事が平穏に済めばいいのだがな」
エインの言葉に、ヒヅキは思わず苦笑する。
「何もない事を願いますよ」
ヒヅキがエインにそう告げたところで、片づけを終えたプリスが食堂に戻ってきた。
「さて、それでは私はそろそろ王宮に戻るとするよ!」
椅子から立ち上がったエインは、胸を反らすように軽く伸びをする。
「では、私も屋敷の外までご一緒させて頂きましょう」
立ち上がったヒヅキは、そう言ってエインに微笑みかけた。
「うむ。許可しよう」
そんなヒヅキに、エインはわざとらしく大仰に頷いてみせた。