斜陽63
それからも、色々とエルフの国について知っている場所を思い出しては、何処を観光しようか考える。現在はエルフの国にもスキアが襲撃しているらしいので、どこまで残っているか分からないが。
(ああそういえば、首都はまだ入れないのだろうか?)
それは昔、ヒヅキがエルフの国に赴いた際に商人である叔父から聞かされた話で、エルフの国の首都には、エルフ以外の種族は入る事が出来ないという。
しかし、完全に入れないという訳ではなく、特別な許可を得た者だけは首都への入国が許されるという。それこそ、国賓や公賓ぐらいの賓客でなければ、今まで入国できていないという話であった。
それでも、現在はあれから大分月日が経ち、状況も変わっている。もしかしたら、その制約も無くなっているかもしれない。
(サファイアさんの話では、エルフの国はスキアに襲われてはいるが、氷の女王と呼ばれている女性が撃退しているという。しかし、全てを護れている訳ではないと言っていたから、普通に考えれば首都を中心とした一定の範囲と考えるべきだろう。ならば、他の町などに居たエルフ以外の種族もその辺りに集まっているだろうが、周辺の町の収容人数や食料事情等を考えれば、首都でも受け入れている可能性がある。……他種族は周辺の町で、エルフのみを首都が受け入れている可能性もあるが、その場合は諦めるしかないだろうな)
エルフの国の首都と言っても、ヒヅキにとってはたいして魅力は無かった。唯一資料が集まってそうだぐらいの考えはあったが、どうしてもそれが必要であれば、正攻法で入国しなければいいだけの話。たとえエルフの国の首都に厳重な警備態勢が敷かれていたとしても、入る方法が存在しない訳ではないのだから。
(しかし、またスキアか。エルフの国では撃退されているという話だったし、俺が行った時には居なくなっていてほしいものだ)
ヒヅキは辟易して内心で溜息をつく。首都云々よりも、そちらの方が問題であった。スキアの相手は、ガーデンで十分過ぎるほどしたので、もう相手にしたくはなかった。というよりも、見たくもなかった。
「ん、んぅ?」
あれやこれやと考えている内に大分時間が経ったようで、ヒヅキの胸元からエインが目を覚ました声が聞こえてくる。
ヒヅキは目を開けると、視線をそちらに向けてエインが起きたのを確認する。
「おはようございます。エイン」
「ん……あぁそういえば、君と一緒に寝たのだったな。おはよう。おかげでいい目覚めだよ」
ヒヅキを見上げながら、エインはまだ少し眠たそうに笑う。
「……結構寝ていたようだな」
窓の方に目を向けたエインは、漏れている光で大まかな時間を察して、そう呟いた。
「ぐっすり眠っていましたからね」
「ふ、そうだな。君が傍に居たからな。久しぶりに安心して眠れたよ」
エインは上体を起こすと、小さく伸びをする。
「プリスは……流石に起きているか」
「はい。朝食の準備をしていると思います」
「そうか」
おそらく朝食の準備は既に終えているだろうが、上体を起こしたヒヅキは、とりあえずそう答えた。
「ん。では、私達も起きるかな」
「そうですね」
二人してベッドから降りる。
「ああそうだ、折角だから着替えを手伝ってくれるか?」
エインは名案でも思いついたかの様に手を叩くと、ヒヅキにそう問い掛ける。
「何が折角なのかは分かりませんが、それぐらいはご自分でなさるか、プリスさんに頼んでください」
それに呆れたような目を向けると、ヒヅキは小さく息を吐き出した。
「はは。冗談だよ。他の有象無象なら露知らず、君に肌を見られるのは恥ずかしいからな。まぁもっとも、君が望むというのであれば、話は別だが」
悪戯っぽく笑いながら、エインはそう告げる。
「光栄な話ですが、謹んで辞退させて頂きます」
「そうか、それは残念だな」
「では、私は先に部屋を出てプリスさんを呼んできます」
「ああ、頼む」
エインが頷くと、ヒヅキは軽くお辞儀をして部屋を出ていった。
「……そこまで魅力がないだろうか?」
ヒヅキが部屋を出ていくと、エインは自分の身体を見下ろしてそう呟く。
「肉付きも悪くないし、自分で言うのもなんだが、色々と悪くないと思うのだがな」
難しい顔をしながら、エインは自分の身体を触りながら確かめ、不満げに唇を尖らせる。
「それに、これでも自分から誘うのは恥ずかしかったんだぞ」
白い肌を薄っすら赤く染めながら、エインは拗ねたように呟いた。




