斜陽62
しかし、やはりそう簡単に眠れる訳もないようで、ヒヅキは目を瞑りこそすれ、浅い眠りにさえつけない。どうしても誰かと一緒に寝るという状況に慣れないのだろう。
(ウィンディーネの場合は、そもそもが届かない相手だからな)
寝込みを襲わずとも、警戒しているヒヅキ相手でも容易く勝てるであろう存在であるウィンディーネには、そういう場面では何処か諦めている部分があった。
(それに、ウィンディーネは何か企んでいても、今はまだこちらを害する気はないようだし)
そう理解しているのもあるのだろう。そういう意味では、エインやプリスをまだ信用しきれていないという事なのかもしれない。
(敵ではないはずなんだがな……)
自分の考えに内心でそう思うも、染みついた習性の様なモノであるそれは、少しずつ改善していくしか方法はないのだろう。
ヒヅキは周囲の気配を探りつつ、耳を澄ませる。
外からは薄っすら喧騒が聞こえてくるも、それはまだ小さい。プリスの屋敷は喧騒から離れた場所に建っているとはいえ、耳を澄ませば日中はそれなりに聞こえてくるはずであった。
(まだ人々が本格的に動き出す時間ではないのか)
なので、ヒヅキはそう判断して、もう少しこのままでいいかと、目を瞑ったままでいることにした。
(プリスさんは朝食の準備、か?)
狭い範囲を動き回っているプリスの気配に、ヒヅキはそう判断する。
(そういえば、昨日の冒険者の件はどうなったのだろうか?)
図書館に向かう前に観察した冒険者達の話を思い出し、後で念の為に冒険者達の動向を探った方がいいのだろうかと考えたヒヅキではあったが、別に問題ないかと捨て置くことにした。
(一応後でプリスさんに尋ねてみるか)
昨日の今日ではあるが、常に情報収集を怠らないプリスであれば、何か冒険者達に動きがあった場合は知っているだろうと考え、そう決める。
「う、うぅ」
そこで胸元付近で声が聞こえてきたので、ヒヅキは目を開けて確認するが、ただエインが身じろいだだけで、起きた訳ではなかった。
それを確認したヒヅキは、再度目を閉じる。
(しかし、これから新たに発見された遺跡に行くとしても、これも誰かの手のひらの上、なのか……?)
可能性がない訳ではないが、情報が無いので判断に困る案件であった。
(まぁ、考えたところで意味はないか。ここまで来たら、その遺跡は調査してみたい。その後はエルフの国だが、その前に家には……やめておくか。ウィンディーネも居るし。真っすぐエルフの国を目指すとするか)
今後の予定を頭に浮かべつつ、エインに言ったように、エルフの国でネックレスを回収した後にどこか観光でもしようかと、記憶にあるエルフの国の情報を思い浮かべていく。
(ああ、そうだ。エルフの国で図書館かそれに類する場所を見つけて、調べ物をしたいところだ)
特にエルフの国に伝わるお伽噺などの伝承を、ヒヅキは知りたかった。
(エルフの国には神について何か情報が在りそうなんだよな。それは、ひいてはこの力の解明にも繋がるかもしれない)
ソヴァルシオンとガーデンの図書館で調べた結果から、ヒヅキはその可能性を頭に思い浮かべる。しかし、他所の国の者であるヒヅキに、エルフの国で資料を調べることが出来るのかは難しいところであった。いくらお伽噺とはいえ、中には重要な話もあるだろう。
(そういえば、エルフの神の話はあまり詳しくは知らないな)
ヒヅキの知るエルフの神は、1つの胴体に醜悪な2つの顔を持つぐらいであった。
エルフの町にその神像が置かれていたが、それは伝承を元に想像して造った部分が強く、神像を見た際に聞かされた話では、神の容姿についてはあまり詳しく書かれていなかったという。
それでも、1つの胴体に2つの顔という異形な姿で、醜い顔をしていたらしいが。