斜陽58
ヒヅキの言葉に応えて、ヒヅキの近くに姿を現したウィンディーネにプリスは反応するも、それは先程のエインと同じで、鈍いものであった。
「あら、こちらも相当ね。少し別のモノも混じっているようだけれど」
そんなプリスの反応に、ウィンディーネはクスクスと笑ってエインの方を一瞥してから、ヒヅキの方を見る。
「ヒヅキはモテるわね。まぁ、それだけ強ければ納得も行くわ。それに、見ていて飽きないもの」
そんなウィンディーネの反応に、ヒヅキは苦笑っぽい笑みを零す。
「ま、とにかく、これで彼女も問題ないという事が分かってよかったわね」
そう言うと、ウィンディーネはチラリとエインとプリスの方を見た後、座っているヒヅキに背後から抱き着く。
「む!」
「……」
それに不機嫌そうな反応をみせた二人に、ウィンディーネはおかしそうに笑うと、真面目な声音で言葉を紡ぐ。
「流石にここまで出来るのはヒヅキだけだけれど、目にしたぐらいでは魅了されないなら上出来なものね。それでも、私に触れないようにするという注意事項は忘れないようにしないと駄目よ? これはヒヅキだから大丈夫だけれど、普通はもう狂信者の如く、私に絶対の忠誠を誓って仕える様になるもの。それこそ、心に誰か居るかどうかなんて関係ないし、一度魅了されてしまっては、そう簡単には解けないわよ。二度と解けないと思った方がいいわね」
ウィンディーネの説明に、二人は真剣な表情で息を呑む。
「ふふ。解ればいいわ。それじゃあ、私はまた消えるわね。ここを出るまでは姿を見せないのが、ヒヅキとの約束ですもの」
ヒヅキに語り掛けるようにそう言うと、ウィンディーネは再度姿を消す。
「……これで、プリスも一緒に問題なく旅に出られるな」
ウィンディーネが姿を消した事で一息つくと、エインがプリスの方を一度見てヒヅキに告げる。
「そうですね。約束は守りますよ」
「ああ。それを聞いて安心した」
目に見えてホッとしたように笑ったエインを横目に、ヒヅキは背嚢を手に椅子から立ち上がる。
「それでは、私はそろそろお暇致します」
ヒヅキの言葉に、呆れたように目を丸くしたエインは、直ぐに悪戯っぽく目を細めて微笑む。
「何を言っているんだ? 君は今日、ここに泊まっていくのだよ。なぁ?」
「はい。御部屋の用意は済んでおります。それにもう夜も遅いので、ヒヅキさんが御嫌でなければ、是非とも当家に泊まっていって下さい」
エインの問い掛けに、プリスは直ぐに頷きそう応えた。
「……分かりました。お世話になります」
何とも断り辛いと思いつつも、ウィンディーネとの一件で大分夜も更けてきたという事もあり、ヒヅキはプリスの言葉に甘えて一泊することに決める。
「よし! そうと決まれば、早速寝ようか!」
椅子から立ち上がったエインは、ヒヅキの腕をがっしりと掴むと、それを引きながら歩き出す。
「……えっと?」
嫌な予感を覚えつつ、ヒヅキが声を出すと、
「当然ながら一緒に寝るとも。別にこれが初めてでもないのだから、問題なかろう」
エインは特に振り向く事もせず、ヒヅキの腕を引きながら歩いていく。ヒヅキはそれに抵抗せず大人しくついて行くも。
「問題は在ると思うのですが……」
一応言葉での抵抗を試みる。
「そうか? 私は君のモノなのだから、何があっても間違いではないだろう。むしろ、一緒に寝ない方が不自然だ!」
「いや、色々と言いたいのですが、とりあえず、一緒に寝る方が不自然だと思いますよ」
「問題ない。それに、君と一緒の方が私は安心して眠れる。しばらくまた会えないのだ、これぐらい許容しろ!」
強引なエインに、ヒヅキは困ったような顔をしながら、後ろから付いてきているプリスの方に目を向ける。
「仲睦まじくて大変良い事かと」
「いいんですか、それで」
「それこそ、今更で御座います」
「……まぁ、そうですが」
エインやプリスの言葉通り、ヒヅキは既にエインと一緒に寝た事があった。それも一度ではない。ただの添い寝ではあったが、そういう意味では今更であった。しかし、それでも困りはする。
それでも半ば最初から諦めていたヒヅキは、そのままエインに手を引かれるがままに、エインの寝室と化している客間へと連れ込まれたのだった。