斜陽57
「それでですね、その神様は魅了持ちでして」
「魅了?」
「ええ。姿だけではなく声でも魅了されてしまうので、同行は難しいのですよ」
ヒヅキの説明に、エインは僅かに考える。
「それは、君も魅了されているのか?」
「いいえ。どうやら私には効果がないようです」
「そうなのか」
「ですが、私以外には効果が在るようで、昨日は声を聞いたプリスさんが軽く魅了されていましたね」
「む! そうなのか?」
その話に、エインは驚いた顔をみせた。
「それで、その神様は今何処に居るんだ?」
「ここに居ますよ。見えないだけで」
「む?」
ヒヅキの言葉に、エインは室内を見回す。
「私も正確な位置までは判りませんが、近くに居る事だけは確かです」
「むぅ。私には判らないな」
エインは残念そうな表情を浮かべる。
「そういう訳で、やはりエインと旅をするのは難しいのですよ」
ヒヅキの言葉に、エインは不機嫌そうな顔をした。
「私が魅了されるかどうかは分からないだろう!」
ヒヅキの話に納得いかないエインに、ヒヅキは困った表情を浮かべる。
「じゃあ、試してみればいいじゃない」
突然の声に、エインはピクリと反応すると、キョロキョロと周囲を見回す。
「何だ? この綺麗な声は!?」
「これが神様の声ですよ」
「……なるほど。だが、これぐらいならば大丈夫だ」
ヒヅキをじっと見据えながら納得したエインの前に、ウィンディーネが姿を現す。
「では、これならどうかしら?」
「ッ!!」
自分の横に立ったウィンディーネに、ヒヅキが呆れた様な目を向ける。
「あ、う」
ウィンディーネに目を向けながら思わず腰を浮かせたエインに、ウィンディーネはヒヅキの方に顔を向けた。
「駄目だった様ね」
「……そうですね」
当然の結果とでも言いたげなウィンディーネに、ヒヅキは今にもため息をつきそうな表情を向ける。しかし。
「む、むぅ。ま、まぁ、これぐらいであれば、大丈夫だ」
直ぐに腰を下ろしてヒヅキに視線を向けると、エインは無理矢理余裕そうな声を出した。
「あら。やはり心に誰かが居ると、効果が薄いわね。それでも、その程度で済むのはたいしたものだわ」
「心に誰かが居る?」
「好きな相手とか尊敬する相手など、その者に強い影響を及ぼしている相手という意味よ」
「なるほど」
「ふふ。でも、よっぽど惚れられているのね」
「光栄な話ですね」
「むむむ」
ウィンディーネとヒヅキのやり取りに、エインは恥ずかしそうな顔をみせる。
「これなら、私に触れない限りは大丈夫だと思うわよ」
「それはそれで問題ですが」
「私は歓迎よ? その方が面白そうだし」
「……はぁ。ウィンディーネを楽しませるのが目的ではないのですが」
「結果としてそうなるのだから、別にいいじゃない」
「ま、それでしたら、エルフの国から戻った後でも問題なければ、一緒に行きましょう」
「ああ、勿論だとも。絶対だぞ!」
「ええ。約束です」
「それじゃあ、私はまた姿を消すとするわね」
そう言ってウィンディーネの姿が掻き消えると、プリスが食堂内に戻ってくる。
一度プリスの姿を確認したエインは、ヒヅキの方に顔を向けた。
「プリスも大丈夫か確認しなければだめではないか? 説明さえすれば、今度は大丈夫だと思うのだが」
エインの説明に、プリスは不思議そうな表情を浮かべつつ近寄ってくる。
「そうですね。共に来るのでしたら確認は必要でしょう」
ヒヅキは頷くと、プリスにウィンディーネの事を説明していく。
「なるほど。あの時の声はそれだったのですね」
ヒヅキの説明に、プリスは納得したと頷いた。
「それで、私は何をすればいいのでしょうか?」
「ウィンディーネと会っていただくだけです」
プリスにそう告げると、ヒヅキは虚空に目を向ける。
「しょうがないわね」
それに反応してウィンディーネが声を出すと、プリスとエインは反応をみせるが、エインの反応は先程より鈍い。
気だるげに声を出したウィンディーネは、そのまま再度姿を現した。